物質・材料研究機構(NIMS)は6月3日、室温で桁違いに大きなドレイン電流の増減現象(負性抵抗)を示す有機pn接合トランジスタ(アンチ・アンバイポーラトランジスタ)の負性抵抗の起源について、光電子顕微鏡による「伝導電子を可視化」する技術により明らかにしたと発表した。

同成果は、NIMS 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(MANA) ナノシステム分野 量子デバイス工学グループの早川 竜馬主幹研究員、NIMS MANA/筑波大の竹入 聡一郎大学院生、筑波大 数理物質系の山田洋一准教授、NIMS MANAの若山裕副拠点長、高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所 放射光科学第二研究系の福本恵紀特任准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、機能性材料に関する化学と物理学を扱う学際的な学術誌「Advanced Materials」に掲載された。

IoT社会で求められる、あらゆるところに設置されるセンサーを実現する基幹技術の1つとして期待されているのが、印刷技術を利用して大面積に安価に形成できる有機集積回路である。有機材料の持つ軽量性と回路設計の柔軟性を活かすことで、IoT用センサーや高性能モバイル端末の開発につながることが期待されている。

しかしまだ集積度が低いなど、実用化までには課題も多い。そうした中、研究チームが以前から研究を行っており、2022年3月には複数の論理演算回路を単一素子で実現することで集積課題で大きく前進を果たしたのが、「アンチ・アンバイポーラトランジスタ」(AAT)と呼ばれる特殊な有機トランジスタだという。

AATは室温で桁違いに大きなドレイン電流の増減現象を示しており、その負性抵抗の詳細なキャリア輸送のメカニズムは不明だった。そこで研究チームは今回、AATの動作中の電動電子の様子を光電子顕微鏡を使用してリアルタイムで観測することにしたという。

その結果、AATがオン状態では、面内pn接合界面で形成される急峻な電位変化により、電子伝導が助長されることが判明。また、オフ状態ではp型あるいはn型半導体全体が空乏化し、電子の流れを阻害することで負性抵抗が発現することが明らかにされた。さらに、ほとんどの電子がp型半導体に蓄積された正孔と再結合し、光電子放出強度を約80%低減することも推測された。

なお、今回の研究成果について研究チームでは、AATのキャリア輸送の理解につながるもので、今後のデバイスのパフォーマンスの向上が期待されるとしている。

  • 今回の研究の概要

    今回の研究の概要 (出所:NIMSプレスリリースPDF)