業務のリモート化に合わせて仮想デスクトップ環境を整備

NECでは「Smart Work 2.0」という働き方のDXにも着手している。例えば、ロケーションフリーで働けるようテレワーク環境を整備したり、社外人材も参加できるバーチャルプロジェクトルームを作成したり、顔認証や自動化などのテクノロジーを生産性向上につながる施策にも取り組んでいる。

働き方のDXの中には、社員のウェルビーイング状態をAIチャットボットとのやりとりで計測し、維持・向上にもAIを活用する「デジタルウェルビーイングアシスタント」の実証実験や、因果分析ソリューションを活用して社員のエンゲージメントを高める上司の行動パターンを明確化する「ピープルアナリティクス」といった先進的な取り組みもある。

  • 「デジタルウェルビーイングアシスタント」のイメージ

  • 「ピープルアナリティクス」のイメージ

身近なところでは、リモートワークのために仮想デスクトップ環境を新たに整備した。NECは2006年からオンプレミスのデータセンターや専用回線などに設備投資を行ってきた。

だが、昨今、7割の社員がテレワークを利用し、アクセスする端末もノートPCやタブレット端末、スマートフォンなどと多様になってきた中で、使い勝手の悪さや映像と音声にズレが生じるなど品質面の不満が顕在化したため、Azure Virtual Desktopを利用してオンライン会議向けの仮想デスクトップ環境を構築した。

オンライン会議やリモート環境の整備に関わる情報システム部門や外販ソリューションとして展開する際の担当営業部門での試験導入を開始。フィードバック、改善を経て、ITに習熟していないコーポレート部門による利用者目線の体験記を全社ポータルで公開した。

  • 仮想デスクトップ環境構築後の新しいオンライン会議システムでの利用体験記。以前の環境では、よりよい映像・音声品質の確保のため、PCとスマートフォンの両方でアクセスする人も少なくなかった

仮想デスクトップ環境の構築と新しいオンライン会議システムの導入に携わった、NEC DX戦略統括オフィスの小口和弘氏は、「導入から半年で1万2000台まで利用が拡大し、利用者アンケートでも性能向上・利便性向上を6割の利用者が実感していることがわかった。社内の関心も高く、体験記にも多数のアクセスがあり、成果を実感している」と話した。

  • NEC DX戦略統括オフィス 小口和弘氏

ゼロトラストに向けてSD-WANやSSPMを導入

DXを支えるセキュリティ環境において、NECはCISO(最高情報セキュリティ責任者)を筆頭にしてゼロトラストベースのセキュリティプラットフォーム整備を進める。

さまざまな取り組みの中から、今回、NEC CISO統括オフィスの田上岳夫氏が、国内300拠点へのSD-WAN(Software Defined Wide Area Network)の展開プロジェクトと、SaaS(Software as a Service)のセキュリティ設定管理を自動化するSSPM(SaaS Security Posture Management)の導入プロジェクトを解説した。

  • NECCISO統括オフィス 田上岳夫氏

「SD-WANの展開では、従来の専用線を一部インターネットなどに置き換え、帯域を62Gbpsから136Gbpsに倍増させつつ回線費を20%削減できた。企業のネットワークを全てSD-WAN化するのは、かなり大変な業務ではある。だが、ランサムウェアの被害が拡大の一途を辿る中で、不要な通信の閉塞や、脅威へのインテリジェンスに基づく緊急遮断を全社で一元化・迅速化するために有効だと考えた」と田上氏は説明した。

  • NECにおけるSD-WANのネットワーク構築のイメージ

SalesforceやMicrosoft 365、Boxなど、事業部門ではさまざまなSaaSの利用が拡大しており、情報漏えいなどを防止するために今回イスラエルのSSPM製品「Adaptive Shield」を導入した。

SSPMにより、SaaSのセキュリティ設定不備は自動チェックされ、不備があった際は各SaaSの管理担当者に改善指示と対応のアラートが届くようになっている。

「SaaSの管理者はセキュリティの専門家ではないため、設定上のリスクを見分けるのが難しいところがあった。ツールで自動化することで人のチェックによるヌケ・モレや、判断ミスが減ることの効果は大きい。加えて、セキュリティのための対応工数が減ることで、運用上の無駄を発見して効率化したり、利益性を高めたりすることにもつながると考えている」(田上)

DXの主役は全社員、フィードバックを次に生かす

NECではDXの社内浸透に向けて、社員向けの発信の機会を増やした。経営層によるタウンホールミーティングやキックオフミーティングで、CXの方向性を話し合う様子やDX戦略の説明を配信するほか、社内IT部門による社内DXの事例紹介記事や現場の利用者の体験記も定期的に配信している。

コミュニケーションが一方通行にならないよう、コーポレートトランスフォーメーション部門では社員からの疑問や要望、不満といったフィードバックを受け付ける窓口を設けている。例えば、DXの理解が深まったという感想の声もあれば、「こんな課題があるのでそちらにも目を向けてほしい」といった具体的な要望もすでに出てきているという。

綿引氏は、「当初からDXの主役は全社員だと伝え続けている。良くも悪くも、いろいろな声を拾うことができる状態を作りたい。まだ、整理できてない課題も多く、完璧には程遠いが、DXの名の下に社内の変化が活発になっていると感じている。と言っても、できることには限りがあるので選択と集中は重要だ。社内からのリアルな声も生かしつつ、今後もCXにつながるDXに取り組みたい」と語った。