国立精神・神経医療研究センター(NCNP)は6月9日、「複雑性心的外傷後ストレス障害」(複雑性PTSD)の治療を目指して米国で開発された心理療法「STAIR Narrative Therapy」の前後比較試験を実施し、同治療法が日本でも実施可能で、患者の症状が改善したことを発表した。

同成果は、NCNP 精神保健研究所の金吉晴所長、NCNP 行動医学研究部の丹羽まどか外来研究員(日本学術振興会特別研究員RPD)、同・大滝涼子客員研究員、若松町こころとひふのクリニックの加茂登志子PCIT研修センター長、かとうメンタルクリニックの加藤知子副院長、黒崎中央医院の大友理恵子臨床心理部長、兵庫県こころのケアセンターの須賀楓介主任研究員らの共同研究チームによるもの。詳細は、PTSDを含むストレスとトラウマの理解・予防・治療を扱う学際的なオープンアクセスジャーナル「European Journal of Psychotraumatology」に掲載された。

複雑性PTSDは、持続的な虐待やDVなどのトラウマ体験をきっかけとして発症し、PTSDの主要症状(フラッシュバックや悪夢、過剰な警戒心など)に加えて、感情の調整や対人関係に困難があるなどの症状を伴い、日常生活や社会生活上に支障を来してしまう精神疾患とされている。通常のPTSDに比べて、日常生活や社会生活の支障がより大きく、併存疾患も多いことがわかっている。

複雑性PTSDに対する最適な治療法については、国際的に検証が進められている段階にある。これまでの関連する研究の積み重ねにより、トラウマに焦点を当てた心理療法が有望であり、中でも複雑性PTSDの多様な症状に対応した治療が有望であることが報告されている。

この多様な症状に対応した治療として米国で開発されたのが「STAIR Narrative Therapy」であり、すでに虐待を経験した成人PTSD患者を対象とした複数の臨床試験でその有効性が確認されている。ただしこれまでの欧米での研究は、WHOが発効した国際疾病分類第11版(ICD-11)における複雑性PTSDを対象とはしていないため、複雑性PTSD診断に該当する患者を対象として、安全性や有効性を確認する必要があったという。

また同治療は米国で開発され、臨床研究も欧米でのみ実施されてきた。そのため、文化や制度の異なる日本でも同じように実施できるか、また同等の効果が得られるのかどうかを確認する必要があったとする。

そこで研究チームは今回、18歳以前に身体的/性的虐待を経験し、ICD-11の基準で複雑性PTSDと診断された成人女性患者を対象として、同治療法の実施可能性、安全性、治療成果を調べるために、対照群を置かない前後比較試験を実施することにしたという。