具体的には、赤方偏移に関しては観測されているz=2.3付近を制約条件にして、z=100の宇宙最初期からz=0の現在に至る110億年の進化の過程がシミュレーションされたところ、COSMOSフィールドにおいて観測されていた原始銀河団の3つが、現在までに実際に銀河団に成長する確率が高いことが確認されたという。

  • シミュレーションの画面

    シミュレーションの画面。(上)光旅行時間110億年(宇宙がまだ27億6000万歳、現在の年齢の20%の時代)に観測された銀河の分布に対応する物質の分布。(下)110億光年後、つまり現在の時代に対応する同じ領域の物質の分布 (出所:Kavli IPMU Webサイト)

中でも、天の川銀河の約5000倍もの質量を持つ超原始銀河団「Hyperion」(ハイペリオン)は、現在まで進化したときには約100Mパーセク(約3億2600万光年)にも及ぶ巨大なフィラメント構造に進化することが確認されたほか、ほかの方法では検出の難しい、質量がより軽い新たな原始銀河団を5つ検出することにも成功したとする。これにより、同観測領域で発見された原始銀河団の数はおよそ2倍になったとする。

研究チームによると、COSTCOの開発で最もチャレンジングだったのは、原始銀河団の周辺の大規模構造からの重力の影響を考慮する点だったという。その構造が孤立しているのか、あるいは周辺の大規模構造から影響を受けているのかは、その構造がどのように進化するのかを左右する重要なポイントだからであり、その影響を正しく考慮できていないと、得られる結果はまったく異なるものになってしまうという。COSTCOでは、周辺の大規模構造の影響を正しく取り入れて、制約条件付きシミュレーションを実行することに成功したことから、得られた結果がより信頼できるものになっているという。

また今回のCOSTCO開発で用いられた手法は、今後得られる広範囲の詳細な高赤方偏移のデータを使うことで、初期の宇宙の大規模構造の形成についての研究や、高赤方偏移と低赤方偏移との間での銀河の性質の比較について大きな貢献をすると期待されるという。現時点ではCOSMOSフィールドに利用できる観測領域はないが、今後、次世代の望遠鏡や観測機器が増えていくことで、利用データも増えることが考えられるとしている。

加えて、COSTCOのようなシミュレーションのもう1つの重要な役割は、宇宙の物理を記述するのに使われている宇宙論の標準モデルを検証することだと研究チームでは説明する。シミュレーションによってある空間の構造の最終的な質量と分布を予測することで、これまで見えてこなかった現在の宇宙についての理解とのズレを明らかにすることができるからだという。

なおCOSTCOは、すでに銀河の宇宙環境や遠方のクエーサーの吸収線の研究など、ほかのプロジェクトでも活用されているとのことである。

今回の研究によるシミュレーションの動画。再生時間2分29秒