実際に、今回の研究では、1μm厚のポリスチレンのフィルムに、最小幅5μmの流路を印刷することに成功したとする。これは現在の世界最小レベルで、なおかつ最薄のマイクロ流路であり、流路の壁面厚みも100nmほどと、毛細血管よりも微細であるという。そのため、このマイクロ流路内に注入された液体は、毛管力(キャピラリー)で流動をコントロールすることが可能なほか、素材を溶解しない限り、どんな有機溶媒でも使用可能であることも確認されたという。

  • 1μmの厚さのポリスチレンのフィルムに印刷されたマイクロ流体デバイス

    (上・a)1μmの厚さのポリスチレンのフィルムに印刷されたマイクロ流体デバイス。構造色により色がついている。(上・b)マイクロ流体デバイス中を流れる溶媒。観察のために緑色の蛍光マーカーで着色されている。最小流路幅は5μm。(下・左)2種類の高さで構成されたマイクロ流路の光学顕微鏡画像。断面は電子顕微鏡像。光学顕微鏡画像で赤色の部分の方が、黄色の部分よりも大きく穴が空いている。(下・右)インスリン(赤)とSARS-CoV-2ヌクレオカプシドタンパク質(緑)を混合した水溶液を、2種類の高さのマイクロ流路に流したもの。検出器(detector)AはSARS-CoV-2タンパク質のみ、同・Bはインスリンのみを検出 (出所:京大iCeMSプレスリリースPDF)

さらに、同手法はさまざまなポリマー素材に適用可能で、これまでにポリスチレンやポリカーボネート、アクリル樹脂などに適用することに成功している。これらポリマーはすべて疎水性だが、アクリルアミドを界面活性剤として添加すれば、流路内に水を流すことも可能とするほか、アクリルアミドは生体適合性が高いので、生体関連物質も問題なく流すことができるともしている。

なお、OM法は穴の高さを調整することもでき、その特徴を利用して1枚のフィルムの流路中に高さの異なる領域を印刷することも可能なほか、流路中に2種類の大きさの分子を導入すれば、狭い流路には小さい分子しか侵入できず、分子の大きさにより分離させることができるという。すでに分子量(大きさ)の異なる糖類の分離や、生体分子の例としてインスリンとSARS-CoV-2ヌクレオカプシドタンパク質の混合した溶液を、流路内で分離することに成功しているとした。

研究チームでは今回の成果を踏まえ、従来の手法よりも簡易に、微細なマイクロ流路を作製することができ、新たなデバイス製造手段としての普及が期待できるとしているほか、これまでよりも薄くなったフィルム型のマイクロ流体デバイスは、フレキシブルでウェアラブルなデバイスやパッチタイプの健康モニタリングシステムの実現に寄与することが予想されるとしている。