直面した最も大きな課題は、サービサーに備えられている8つのスラスタのうち、4つの機能が失われたことだったとする。3つはシステム由来によるものだが、残りの1つの根本原因の究明には現時点で至っておらず、当該部品のサプライヤーであるBradford/ECAPS社と連携して現在も調査を続けているとした。

  • ELSA-dのサービサーとクライアント

    ELSA-dのサービサーとクライアントを別の角度から (c) Astroscale (出所:アストロスケール)

しかし技術実証は完全な中止とはせず、残りの4つのスラスタだけで、サービサーによるクライアントへのランデブーが試みられることとなった。その実現のため、これまで2か月の間に、複数回にわたって精密な軌道制御(マヌーバ)を実施。そしていよいよ4月7日、サービサーによるクライアントへの誘導接近が実施された。

159mの距離にまで再接近して、クライアントを探索し検出することに成功。その後、GPSと地上からの観測値を用いる絶対航法から、衛星搭載センサを駆使する相対航法への切替えも行われた。この切り替えての航法は、今回のミッションの中でも最も困難な運用だったという。

このあと、サービサーを再度クライアントから遠ざけており、数か月間はこのまま安定した距離を保つ予定とした。この間、ELSA-d運用チームは、クライアントの安全な再捕獲の可能性を含め、ミッションの次の段階について分析する予定としている。

自律捕獲の実証の完了には至っていないが、これまでのELSA-dミッションにおいて、以下を含むデブリ除去のためのコア技術を実証することができたとした。

  • 自律制御機能と航法誘導制御アルゴリズム
  • 航法センサ群を駆使した閉ループ制御
  • スラスタによる自律的な接近マヌーバおよび姿勢制御
  • 絶対航法の技術(GPSと地上観測)を活用したサービサーの誘導航法(クライアントから約1700kmの距離から約160mへの接近)
  • 絶対航法から相対航法への移行(サービサー搭載のLPRセンサを活用)
  • 1年以上にわたる軌道上でのミッション運用経験
  • ドッキングプレートと磁石を用いた捕獲機構

こうした技術実証を可能とすることで、アストロスケールのEOL(End of Life)サービスによって、衛星運用者は、保有衛星の保護、ほかの衛星との衝突回避、そして軌道環境の保全など、積極的な取り組みへの示唆が可能となるとする。

  • アストロスケールのドッキングプレート

    アストロスケールが2021年11月16日に発表した、デブリと化した衛星でも磁力を使って回収がしやすくなる事前搭載型のドッキングプレート。ELSA-dのクライアントにも搭載されている (c) Astroscale(出所:アストロスケール)

またELSA-dミッションから得られた知見を用いて、軌道上ミッションで役目を終えた複数の人工衛星を除去する衛星「ELSA-M」(エルサ・エム)での設計・開発に活かしていくとした。ELSA-Mミッションは、英国宇宙庁(UKSA)や欧州宇宙機関(ESA)を主要パートナーとして軌道上実証を予定しており、そのための技術の開発と計画が進められているという。さらに、One Web社などの衛星コンステレーション運用者保有の複数機の衛星を捕獲する機能検証も実施する予定としている。