米国航空宇宙局(NASA)は2022年3月24日、クルー・ドラゴン宇宙船の4番機を「フリーダム(Freedom)」と命名したと発表した。

名前を考案し、同機の初飛行にも搭乗するチェル・リングリン宇宙飛行士は「基本的人権と、誰にも妨げられない人間の精神から生み出される産業とイノベーションを称えたもの」と命名理由を説明。

初飛行は4月20日に予定されている。

  • クルー・ドラゴン

    クルー・ドラゴンは「フリーダム」と、その初飛行ミッションCrew-4に搭乗する4人の宇宙飛行士 (C) NASA

クルー・ドラゴン「フリーダム」

クルー・ドラゴン(Crew Dragon)は、米民間企業スペースXが開発した有人宇宙船で、これまでに3機が生産、運用されている。

この3機にはそれぞれ名前がついており、1番機は「エンデバー(Endeavour)」、2番機は「レジリエンス(Resilience)」、3番機は「エンデュランス(Endurance)」と命名されている。クルー・ドラゴンは、宇宙飛行士が乗り込むカプセル部分が再使用されるため、スペースシャトルと同じように、今後も同じ名前の機体が何回も宇宙を飛行することになる。

そして今回、新たに製造された4番機に、「フリーダム」という名前が与えられた。

各機の名前は、その最初の飛行に搭乗する宇宙飛行士たちが決めることになっている。

フリーダムという名前を考案したひとりで、同機の初飛行にも搭乗するチェル・リングリン宇宙飛行士は「この名前は、基本的人権と、誰にも妨げられない人間の精神から生み出される産業とイノベーションを称えたものです」と、その命名理由を語る。

また、「商業クルー計画を通じ、NASAとスペースXは、米国の自立した有人宇宙飛行能力を取り戻しました。その創意工夫と努力に敬意を表したものでもあります」とも説明。米国は数年前まで宇宙船をもたず、ロシアの「ソユーズ」宇宙船に宇宙飛行士の輸送を依存しており、クルー・ドラゴンの運用開始で自立した、自由になったことも理由とした。

そして、「米国初の有人宇宙飛行を成し遂げたアラン・シェパードは、『フリーダム7』と命名された宇宙船で飛行しました。私たちは、新しい世代に『フリーダム』をもたらすことを光栄に思います」とも語り、宇宙開発の歴史から、自由の大切さ、そしてその自由が脅かされている世界の惨状への抗議や抵抗など、さまざまな想いを込めた名前であると説明している。

なおスペースXによると、有人のクルー・ドラゴンはこの4機目をもって生産完了とし、今後は4機を再使用することで運用を行うという。また、いずれは開発中の巨大宇宙船「スターシップ」が後継機となる。

  • クルー・ドラゴン

    クルー・ドラゴン(画像は2021年に撮影されたCrew-2のもの) (C) NASA

これまでのクルー・ドラゴンの名前と歩み

1番機「エンデバー」

意味は「努力」。クルー・ドラゴンの開発にあたってスペースXやNASAが注いだ努力や、最初に搭乗した2人の宇宙飛行士が、それぞれ初の宇宙飛行の際に搭乗したスペースシャトルのオービターの名前にちなむ。

もともとの由来は、1768年に英国の探検家ジェームズ・クックが探検航海に使った英国の帆船「HMSエンデバー」で、そのため綴りも「u」が入った英国英語の「Endeavour」となっている。

これまでに、有人試験飛行ミッション「Demo-2」(2020年)、2回目の有人運用ミッション「Crew-2」(2021年)で飛行。

2番機「レジリエンス」

意味は「回復力」。命名したひとりの野口聡一宇宙飛行士は「レジリエンスとは、『困難な状況から立ち直ること』、『形が変わってしまったものを元通りにすること』といった意味。世界中がコロナ禍で困難な中、協力して社会を元に戻そう、元の生活を取り戻そうという願いを込めた」と説明している。

これまでに、初の有人運用ミッション「Crew-1」(2020年)、初の民間人のみの宇宙旅行ミッション「インスピレーション4」(2021年)で飛行。

3番機「エンデュランス」

意味は「不屈の精神」。2021年の有人運用ミッション「Crew-3」で初飛行し、現在もISSに結合中。

名前は、1914年に英国のアーネスト・シャクルトンが率いた南極探検隊の船「エンデュアランス」にちなむ。なお、ミッション中の今年3月5日、沈没後100年以上にわたって行方不明になっていたエンデュアランス号が、南極沖のウェッデル海の水深約3000mの海底で発見された。

  • クルー・ドラゴン

    打ち上げ準備中のエンデュランス (C) SpaceX

フリーダムの初飛行ミッション「Crew-4」

フリーダムの初飛行ミッション「Crew-4」の打ち上げは、4月20日に予定されている。

同ミッションでは、コマンダーを務めるリングリン宇宙飛行士を含め4人が搭乗し、国際宇宙ステーション(ISS)へ飛行。昨年11月にCrew-3ミッションでISSを訪れ、現在滞在中の4人の宇宙飛行士と交代する形で、約5か月間長期滞在。今年秋に地球に帰還する予定となっている。

チェル・リングリン(Kjell N. Lindgren)

NASA宇宙飛行士。1973年、台湾生まれ。

2009年にNASAの宇宙飛行士候補者として選抜され、2015年に油井亀美也宇宙飛行士らとともに初飛行。ISSの第44次/45次長期滞在クルーを務めた。今回が2回目の飛行で、クルー・ドラゴンのコマンダー(船長)を務める。

ロバート・ハインズ(Robert Hines)

NASA宇宙飛行士。1975年、米国生まれ。

2017年にNASA宇宙飛行士候補として選抜され、今回が初の宇宙飛行となる。今ミッションではクルー・ドラゴンのパイロットを務める。

サマンサ・クリストフォレッティ(Samantha Cristoforetti)

欧州宇宙機関(ESA)宇宙飛行士。1977年、イタリア生まれ。

2009年にESAの宇宙飛行士候補として選抜され、2014年から2015年にかけ、第42次/43次長期滞在クルーとしてISSに滞在。今回が2回目の宇宙飛行となる。

クルー・ドラゴンではミッション・スペシャリストを務め、打ち上げから帰還までの間、機体の管理や、タイムラインやテレメトリー、消耗品のモニタリングを担当し、船長やパイロットを補佐する。

ジェシカ・ワトキンズ(Jessica Watkins)

NASA宇宙飛行士。1988年、米国生まれ。

カリフォルニア工科大学で火星探査車「キュリオシティ」の科学チームの一員として活躍したのち、2017年に宇宙飛行士候補に選ばれた。

今回が初の宇宙飛行で、クリストフォレッティ宇宙飛行士と同じく、クルー・ドラゴンのミッション・スペシャリストを務める。

  • クルー・ドラゴン

    クルー・ドラゴンで訓練するCrew-4の宇宙飛行士たち (C) NASA

参考文献

Kjell LindgrenさんはTwitterを使っています: 「FREEDOM!! Crew-4 will fly to the International Space Station in a new Dragon capsule named “Freedom.” The name celebrates a fundamental human right, and the industry and innovation that emanate from the unencumbered human spirit. 1 / Twitter
What You Need to Know about NASA’s SpaceX Crew-4 Mission | NASA
SpaceX Crew-4 Astronauts Enter Quarantine for Mission to Space Station - Commercial Crew Program
Crew-4 Mission Overview