アルテミスI

SLSの1号機の飛行ミッションは、「アルテミスI」と呼ばれている。打ち上げは、前述したリハーサルの結果にも左右されるが、早くとも今年5月以降とされている。

このアルテミスIミッションでは、無人のオライオンをSLSで打ち上げ、月の周回軌道に投入。試験などを行ったのち、地球に帰還する。ミッション期間は4~6週間の予定で、SLSの性能や、オライオンが地球と月の往復飛行に耐えられるかどうかなどが試験される。

オライオンは2014年にも無人試験飛行を行っているが、このときはサービス・モジュールなどが未完成の試作機であり、完全な実機での試験飛行はこのアルテミスIが初となる。

またSLSには、米国内外の大学や研究機関の超小型衛星を10機も搭載し、月に向かう軌道に投入する。日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)も参加しており、超小型の月着陸機「OMOTENASHI (おもてなし)」と、超小型探査機「EQUULEUS (エクレウス)」が搭載されている。

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    アルテミスIミッションで月へ向けて飛行するオライオン宇宙船の想像図 (C) NASA

アルテミスIが成功すれば、2024年以降にはアルテミスIIが計画されている。このミッションでは、初めて宇宙飛行士が乗ったオライオンをSLSで打ち上げる。オライオンは月の周回軌道には入らず、月の裏側を通り、Uターンして地球に帰ってくる「自由帰還軌道」で飛行する。ミッション期間は約7日間の予定。

そして2025年、いよいよアルテミスIIIにより、1972年のアポロ17ミッション以来半世紀以上ぶりに、人類は月へ降り立つことになる。

なお、アポロ計画ではすべて月の表側に着陸したが、アルテミス計画では水があると考えられている月の南極に降り立つ。アルテミス計画では、アルテミスIIIのあとも継続して月面探査を行うことが計画されており、この水を資源として、人が生きるのに必要な酸素を取り出したり、飲料・生活用水として使ったり、ロケットや月面車の燃料として使ったりすることを目指している。

継続的な月探査のため、アルテミスIIとIIIの間にあたる2024年秋ごろからは、月周回有人拠点「ゲートウェイ」の建設も始まる。ゲートウェイは月を周回する宇宙ステーションで、オライオンに乗って地球からやってきた宇宙飛行士はまずゲートウェイに入り、月着陸船に乗り換え、月面に着陸。探査活動を行ったあと、ゲートウェイに戻って、そしてオライオンに乗り換えて地球へ帰還する。この流れを継続的に、そしてローテーションを組んで行うことで、つねに宇宙飛行士が月面で活動し続けることを目指している。

また、ゲートウェイの建設や物資の補給などでは、民間のロケットや補給船も活用する。すでにイーロン・マスク氏率いる「スペースX」と補給契約が結ばれているほか、月着陸船も同社が開発することになっている。

そして、月とその周辺を舞台に、宇宙飛行士の宇宙での長期滞在や、他の天体の探査、資源利用など、多くのノウハウを獲得したのち、2030年代には有人火星探査に臨むことになる。

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    アルテミス計画で月面探査をする宇宙飛行士の想像図 (C) NASA

発射施設の伝統と革新

SLSが立ち、そして打ち上げられるケネディ宇宙センター第39発射施設は、かつてサターンVやシャトルが飛び立った歴史的な場所でもある。建設が始まったのは1964年、完成したのは1967年のことだった。

すぐ近くには第39A発射施設もあり、月面着陸を行ったアポロのミッションをはじめ、基本的にはAのほうが使われ、Bは予備的な扱いだった。ただし、その後のスカイラブ計画、ソ連と共同で実施したアポロ・ソユーズ・テスト計画では、サターンIBロケットの打ち上げ場所として活躍した。

1981年にスペースシャトルの運用が始まると、全135回の打ち上げ中、53回を担当。39Aのほうが多いとはいえ、ともに運用を支えた。

その後、前述したコンステレーション計画のロケット打ち上げのために改修が行われるも、2009年に1回の試験ミッションを行ったのみで頓挫。だが、新たにSLSの発射施設として生まれ変わることになった。

コンステレーション計画の際には最低限の改修が行われたのみだったが、SLSの打ち上げに使うにあたり、抜本的な改修を実施。たとえば合計396kmにも及ぶ銅線ケーブルを、91kmの光ファイバーに置き換えたり、パッドの運用に必要なシステムをPLC(プログラマブル・ロジック・コントローラー)に置き換えたり、消音のための散水システムや噴射の煙を逃がすためのフレーム・トレンチ(煙道)が改修されるなど、1960年代の設備から21世紀の設備へと生まれ変わることになった。

また、運搬に使う「クローラー・トランスポーター」という無限軌道で走る巨大な車輌は、アポロ計画やスペースシャトルでも使われたものを流用してはいるが、2016年に大きな改修を加えており、「スーパー・クローラー」と呼ばれるようになった。VABも、基本的には流用しつつ、SLS用に改修された。

逆に、移動式発射台はほぼ唯一SLSのために新造されたといっていいが、厳密にはコンステレーション計画の際に建造したものを、大幅に強化する形で流用している。

アポロ計画で人を月へ送り、スペースシャトルで国際宇宙ステーションの建設や運用を支えた歴史と伝統を受け継ぎ、技術革新によって生まれ変わった発射施設。人類がふたたび月へ、そして初めて火星へと飛び立つ日に向けて、この地にロケットの夏が訪れようとしている。

  • SLS

    VABや射点設備、クローラーなど、施設・設備の多くはアポロの時代に造られたものを、現代の技術で改修して使用している (C) NASA/Kim Shiflett

参考文献

NASA’s Mega Moon Rocket, Spacecraft Complete First Roll to Launch Pad | NASA
NASA Readies Rocket for Artemis I Wet Dress Rehearsal | NASA
Space Launch System | NASA
NASA: Artemis I
Around the Moon with NASA’s First Launch of SLS with Orion | NASA