京都大学(京大)は、高輝度光科学研究センター(JASRI)が運用する大型シンクロトロン放射光施設「SPring-8」において、金属材料内部の破壊の様子を3Dで直接観察できるX線CTと、金属材料のさまざまな情報を得ることができる「X線回折コントラストトモグラフィー法」(DCT)を組み合わせた「マルチモーダル3Dイメージング技術」を開発したことを発表した。

同成果は、京大大学院 工学研究科の平山恭介助教らの研究チームによるもの。詳細は、日本金属学会が刊行する材料科学と加工技術を扱う欧文学術誌「Materials Transaction」に掲載された。

金属材料の破壊は、内部もしくは外部から発生して内部を進行していくために観察が難しく、破壊が「いつ」、「どこから」、「どのように」発生・進行していくのか、そのメカニズムは完全には理解されていないという。しかし、今後、材料のさらなる高強度化を進めていくためには、そのメカニズムの完全なる把握が求められおり、その実現のために金属材料内部を含め、破壊現象を3Dで直接観察することが必要とされていた。

また、破壊現象と材料の組織、特に結晶粒は密接に関わっていることだ知られており、そのサイズや形状、結晶の向き、空間的な分布を制御することで、破壊への抵抗を向上することができるようになるため、破壊メカニズムの解析のためには、「破壊の発生・進行の3D直接観察」と「結晶粒の3D情報の取得」を1つの試験片から同時に行う必要があるという課題があった。

そこで研究チームは今回、放射光を用いて、X線CTとDCTを組み合わせたマルチモーダル3Dイメージング技術を開発に挑戦。その実現のため、SPring-8において、X線CTとDCTの両方を、同時に同一試料に対して実施できる実験装置が構築された。

X線CTでは破壊位置の特定およびその発展の様子を、DCTでは結晶粒の形態、向きの情報をそれぞれ画像として取得することが可能であり、今回開発された装置には、X線CTとDCTそれぞれにカメラが用意され、これらを必要に応じて切り替えることで同一の試験片から破壊の発生・進行と結晶粒の3D情報を得ることができるように工夫が施されたという。

この技術を用いることで、実験では水素が侵入した高強度アルミニウム合金の脆性破壊メカニズムの解析から、従来、定説とされていたメカニズムとは異なる結果が得られたという。

具体的には、水素が侵入した高強度アルミニウム合金の脆性破壊では、転位と呼ばれるナノレベルの欠陥に水素が集まり、転位が結晶粒のある特定の格子面で活発に動くようになり、最終的に格子面で分離が起こるため、破断面に格子面が現れるとされていた。

  • マルチモーダル3Dイメージング技術

    マルチモーダル3Dイメージング技術の実験・解析の流れ。(左)実験装置の模式図。(中央)DCTによる金属材料の結晶粒の3D再構成像。色は結晶粒の向きが表されている。(右上)破断面の中で格子面と考えられる平坦な領域が黄色で、その中でもより平坦な領域が赤色で表されている。(右下)黒丸は、右上の赤色の領域(破断面)の向きが表されている。白丸は、転移の動く特定の格子面で、水素の影響により形成されると考えられていた破断面の向き (出所:京大プレスリリースPDF)

転位に水素が集積しているとすると、特定の格子面が破断面に現れるようになるため、破断面の向きは転移が動く特定の格子面に集中するが、今回の実験による解析の結果、破断面の向きはランダムに分布していることが判明。水素が侵入した高強度アルミニウム合金の脆性破壊メカニズムは、定説であった転位に起因するものではないということが示されることとなったという。

この結果は、アルミニウム合金中の水素は転位には集まらないというスーパーコンピュータを用いた原子シミュレーションともよい一致を示しており、マルチモーダル3Dイメージング技術により、高強度アルミニウム合金の真の脆性破壊メカニズムが解明されたともいえるとしている。

  • マルチモーダル3Dイメージング技術

    X線CTにより得られた高強度アルミニウム合金の破壊の様子。黄色で示される亀裂が、負荷がかけられるごとに進展していることが確認できる (出所:京大プレスリリースPDF)

なお、今回開発されたマルチモーダル3Dイメージング技術は、金属材料の破壊現象だけでなく、温度や圧力を変化させた時の金属内部組織の変化や腐食といった、金属の化学反応を理解するための画期的な手法であり、従来の2Dでの観察では完全には解析できない現象でも、3Dかつ時間変化を直接観察できることから、新たな知見が得られることが期待されるという。

また、材料設計の観点においても有用であるとしており、X線CTおよびDCTで得られる膨大な情報を統計的に解析していくことで、材料設計の指針を得ることも可能であると考えられるとしている。