東京大学(東大)は2月7日、エンジニアリングセラミックス「イットリア安定化ジルコニア」に通電処理を施すことで、硬度を維持しながら弾性率が低下して材料が柔軟になる性質を発見したことを発表した。

同成果は、東大大学院 工学系研究科 マテリアル工学専攻の吉田英弘教授(同・工学系研究科 次世代ジルコニア創出社会連携講座 特任教授兼任)、同・増田紘士助教を中心に、物質・材料研究機構と名古屋大学の研究者も参加した共同研究チームによるもの。詳細は、無機材料を扱う学術誌「Acta Materialia」に掲載された。

セラミックスは金属以外の無機材料の総称で、陶磁器やガラス、引退したスペースシャトルの耐熱タイル、半導体などの電子機器部品、耐火物・切削工具のような産業用部品など、対象となる物質の範疇は幅広い。

そうしたセラミックスの特徴の1つとして、金属や高分子とは異なり、塑性変形をほとんど起こさない点があるが、そのため外力を加えた際に亀裂の周囲に発生する応力集中を緩和できずに破壊を起こしてしまうことが短所とされている。

この脆い性質のため、セラミックス製大型部品の信頼性を保証することは難しいとされており、過酷環境に直接曝される小型部品(コーティングなど)のみをセラミックス製とし、これを金属などの異種材料部品と接合することもあるが、異種材料同士の接合部が温度変化に曝されると、熱膨張率の違いによって生じるひずみに耐え切れずセラミックスが破壊してしまうことも知られており、セラミックスを耐熱部材として利用するためには、そうした熱破壊に対する耐久性を高めることが重要とされている。

そうした中、近年、セラミックスに電気を流すと焼結や超塑性変形が高速化する現象に対する研究が盛んに進められるようになっており、そうした研究を通じて、通電環境下ではセラミックス中に高濃度の点欠陥(点状の結晶中の周期構造の乱れ)が導入され、これらの欠陥を媒介した原子拡散が促進されることが予想されてきた。

そこで研究チームは今回、通電によって導入される点欠陥を利用した新しい材料機能を発現させることを目的として、緻密質なイットリア安定化ジルコニア試料に対する評価を行うことにしたという。

イットリア安定化ジルコニアは、酸化ジルコニウム(ZrO2)に酸化イットリウム(Y2O3)を添加し、正方晶もしくは立方晶構造を安定化させたエンジニアリングセラミックスで、炉内温度600℃・電流密度400mA/mm2で10分間の通電処理を施した後、弾性率を導き出すための音速測定と、硬さを計測するためのナノインデンテーション測定による材料の力学特性評価が実施された。

その結果、試料にゆっくりと力を加えた場合には弾性率が最大で30%ほど低下し、材料が柔軟になる一方、硬度は維持されることが確認されたという。また、音速測定から得られた高速度域での弾性率は通電処理前後で変化しなかったのに対して、ナノインデンテーション測定から得られた低速度域での弾性率は通電処理によって低下し、この傾向は荷重負荷・除荷速度を低下させるほど顕著になったという。

速度に応じて物性が変化するメカニズムは「熱活性化過程」と呼ばれ、通電処理によって材料中に形成された点欠陥が、活性化エネルギーを乗り越えつつ可逆的に運動することで、このような性質が現れたと考えられると研究チームでは説明している。

なお、研究チームでは今回の成果について、硬度を維持しつつ、高分子のような柔軟な性質をセラミックスに付与できたことは画期的なことだとしており、今後、材料の弾性率を制御することができるようになれば、セラミックス部品の信頼性向上につながるさまざまな応用が可能となるとしている。

  • セラミックス

    (a)通電処理中の試料外観。(b)接触弾性率の荷重速度依存性。通電処理前の試料では、弾性率は荷重速度によらず一定かつ音速測定によって得られる値とほぼ一致していた。それに対して、通電処理後の試料は弾性率が音速測定によって得られる値より低下し、その傾向は荷重速度を低下させることでさらに顕著だったという (出所:東大プレスリリースPDF)