東北大学は3月10日、次世代の第6世代(6G)移動通信システムで使用されるテラヘルツ波用の任意の屈折率特性を有する光学素子の実現を目指し、メタマテリアルを内包した粉末状で、加工・形成を容易に行える新たなテラヘルツ光学材料を開発したことを発表した。
同成果は、東北大大学院 工学研究科の金森義明教授、同・岡谷泰佑助教らの研究チームによるもの。詳細は、ナノ構造とフォトニックの相互作用に焦点を当てた学術誌「Nanophotonics」に掲載された。
5G通信の次の世代となる「6G」の実用化に向けた研究開発が世界中で進められているが、6Gでは5Gで採用されたミリ波よりも高い周波数帯であるテラヘルツ波の使用が見込まれている。しかし、現時点では、テラヘルツ領域における光学材料の選択肢が乏しく、テラヘルツ波を自在に操作するためのレンズやプリズム、フィルタなどの多種多様な光学素子の実現が困難な状況にあり、加工や形成が容易で、かつ幅広い屈折率特性を有する新規材料の開発が求められているという。
そうした新規材料の候補の1つが超微細構造体で構成される人工光学物質であるメタマテリアルで、従来の電磁波操作技術の限界を打ち破る革新的な性能や特徴などを有するとされている。
そこで研究チームは今回、自由な形状に形成可能かつ任意の屈折率を有する三次元バルクメタマテリアルを、部材として安価で大量に提供可能な製造技術の開発を試みることにしたという。
三次元バルクメタマテリアルは、透明樹脂中にメタマテリアル単位構造が三次元的に方向依存なく分散された構造であるため、偏光依存性が解消され、等方的な光学特性が実現できることが特徴だが、これまで任意形状のメタマテリアル単位構造を形成可能な製作技術を用いた立体的メタマテリアルは実現されているが、厚みの制約や構造の向きの制約があり、三次元的に等方分散されたバルクのメタマテリアルは実現されていなかったという。また、自己組織化パターニングやバイオテンプレートを用いた製作方法は、メタマテリアル単位構造の形状が制約されてしまうという課題があったとする。
そこで今回の研究では、製造上の厚みの制約がなく、設計に基づく任意形状のさまざまなメタマテリアルを三次元的に等方分散した真の三次元バルクメタマテリアルの製造技術の開発が進められた。具体的には、開発されたメタマテリアルは粉末として供給可能であり、テラヘルツ波の波長よりも小さな数十~数百μm程度の大きさのメタマテリアルが内包された樹脂製粉末を液状樹脂に攪拌し、型を用いて凝固させることで、任意形状かつメタマテリアルの設計に応じた屈折率特性を持つ光学物質(三次元バルクメタマテリアル)が製作できるという。
実際に、金型成形を用いることで、一例として直径12mm、厚さ1.6mmの三次元バルクメタマテリアルが製作されたが、これは代表的なメタマテリアル単位構造のスプリットリング共振器を内包した、1辺100μmの立方体の粉末を用いて製作され、メタマテリアルは三次元的にランダムに分散配置されたとする。
この三次元バルクメタマテリアルは、周波数0.7THz付近において、屈折率を0.135変化させることに成功したという。
研究チームによると、今回開発されたメタマテリアルは固体の粉末材料として供給可能なため、金型成形や切削加工などの機械加工により、メタマテリアルを自由に加工してテラヘルツ光学素子を実現できる点が特徴だという。そのため、これらの利点を活かし、6Gの通信技術をはじめ、医療・バイオ・農業・食品・環境・セキュリティなど幅広い分野での応用が期待されるとしている。