台湾政府は、域内の半導体産業の需要にこたえる高度な研究人材の育成に向け、「半導体学院」とも呼ばれる半導体専門大学院の主要大学での設置を進めているが、その一環として12月24日、国立台湾大学で蔡英文総統が出席して「重点科技研究学院(Graduate School of Advanced Technology)」と命名された大学院の開所式典が行われたと、台湾の複数のメディアが報じている。

同学院には、「集積回路設計と設計自動化」「半導体デバイス、材料、およびヘテロ統合」、「ナノエンジニアリングとナノサイエンス」の3つのコースに修士課程と博士課程が設置されており、すでに280人が修士コースに登録し、今回、1期生として75名が入学したとされるほか、博士課程は2022年3~4月に登録が開始される予定だという。

同学院は、TSMC、Power Semiconductor Manufacturing 、MediaTek、Etron Technologiesなど台湾半導体産業界からの資金援助を得て、産官学連携で運営にあたるという。

蔡英文総統は開所式典で、「台湾の半導体技術は世界トップであり、完璧なサプライチェーンを構築しているが、これで発展の歩みを止めるわけにはいかない。産業革新のペースを加速するため、半導体専門大学院を設置して人材の育成を加速することが台湾にとって最も重要である」と述べ、優秀な海外からの留学生も受け入れることを目的に、入学は年数回できるようにし、授業は英語で行うことが望ましいと付け加えた。

台湾では、国立台湾大学に続き、他大学にもこの制度を展開することにしており、半導体人材の育成にさらに注力していく予定だという。中国でも、北京大学や清華大学などに「集積回路学部」が開設されており、韓国でも、政府が主導して半導体専攻学生の学費を免除し、入学時に就職先が決まる「契約学科」制度を全国展開しようとしている。

このように日本近隣の各国が、半導体人材の育成に重点的に取り組む姿勢を見せているが、日本でも、熊本にTSMCとソニーが合弁会社ジャパンアドバンスドセミコンダクタマニュファクチャリング(JASM)を設立、工場を建設するのを受けて、熊本大学が「半導体教育・研究センター」を2022年4月に開設し、専門人材育成拠点としようとしているが、JASMが予定している3年後の稼働開始時点で、日本で十分な人材確保のめどが立たないことが予想されると、TSMCのMark Liu会長も認める発言をしている。

背景には日本では、半導体を専攻してきた各大学の教授が、半導体では研究費の獲得が難しい状況が長く続いてきたことを受け、研究テーマを変更したり、定年退職の年齢に達するなどにより、教育人材が底をついてしまったという問題がある。また、近年は、多くの日本メディアによる度重なる半導体に対するネガティブな報道などの影響で半導体分野を希望する学生も極端に減ってしまっており、現存大学の半導体分野の研究を支えているのは海外からの留学生である場合が多い。最近の日本は、海外半導体メーカーの工場誘致ばかりに目を奪われがちだが、将来を考えれば、半導体分野の人材不足に対する抜本的な対策が必要であろう。