海中・海底探査には、AUVなどの海中・海底を観測する機器を海中へと潜水させ、観測機器との通信拠点などの基地として、これまで船舶が利用されてきた。

しかし、東京大学生産技術研究所(東大生研)の横田裕輔准教授らの研究チームは、この船舶に代わる基地として、ドローンを活用することを研究されている。では、なぜドローンを活用するのか、ドローンを活用することでどのようなメリットがあるのか、今回は、そんな話題について紹介したいと思う。

横田准教授が取り組む海面基地としてのドローンとは?

2021年10月20日、「ドローンが海中・海底探査の母船に? ~ 高効率な海中・海底観測のための新しい海面基地としてのUAV ~」というタイトルのプレスリリースが東大生研から発表された。

海中・海底探査には、もちろん海中へ海中・海底を観測する機器を沈めるが、その観測機器とのデータの送受信を行う拠点は、船舶が一般的だ。

もちろん、海中・海底観測機器の投入・回収も船舶で行う。しかし、船舶を基地として活用することは、コストが高い、機動性が低い、船舶からのエンジン音など海中音響ノイズの影響がある、などの課題がある。

この課題の解決策として、船舶に代わる海面基地としてドローンの活用を研究されているのが東大生研の横田准教授だ。

横田准教授は、東京大学の地震研究所で2013年に博士号を取得した後、海上保安庁で海底測地観測に数年従事された経験を有する。海底測地観測は、プレート沈み込み帯の巨大地震を知るために現在では必須だが、横田准教授が入庁したころは、海底測地観測についてようやく成果が出始めた段階だったという。

そして横田裕輔准教授の代で重要な結果がいくつも得られたことで、この分野における観測業務の地位が確保されたというのだ。このような観測業務を進められているなかで、海底情報の取得の重要さ、そのコストの高さを痛感され、このボトルネックの解消をやらないといけない、そう考えられ、今の研究に尽力されているという。

実は、このドローンを活用した実証事例は現在まで圧倒的に不足しているという。その理由は、ドローンの開発は陸上の測位、運送、農業などでは活用が進んでいるが、海での活用はロストの危険性があること、“分野の垣根が高い”ことなどが、進展を妨げている。

海面基地としてのドローンの実証実験とその結果は?

横田准教授らの研究チームは、プロドローンと連携し、海面基地としてのドローンの実証実験を実施。ドローンは、船舶に比べコストと時間が大幅に低減でき、海面での位置決定の精度も高く、海中音響ノイズも低減することを確認したという。

実証実験は、ドローンとAUVなどの海中・海底観測機器との通信能力とその高効率性を実証することが目的で行われた。下の図中の(a)、(c)のように海中音響通信機器をロープで吊るしたドローンで20m~200mと距離を徐々に離していき、位置決定精度を検証した。

結果は、2m~3m程度の誤差範囲で、位置決定精度が決定できていることが確認されている。

海面という流れがあるような環境においてこの精度は、位置決定精度としては高く、ドローンの有効性が示されたことになる。ほかにもドローンは船舶と比較して海中音響ノイズをほぼ発生させないというメリットも確認することができたという。

  • 東京大学

    ドローンとAUV、海中・海底観測機器との通信能力などを確認する実証実験のイメージ(出典:東京大学)

また、今回の実験ではドローンでAUVなどの海中・海底観測機器をロープで吊りながら実証実験が行われている。

ある程度風も吹いていると考えるが、まったく絡まらずに機器を捕捉している点もすごい。1点で吊ったのでは海中・海底観測機器の向きを維持できない。そのため4点吊りを採用することで絡まらず安定したという。

横田准教授によると、絡まらずに海中・海底観測機器を捕捉できたのは、想定以上のことだったとおっしゃるが、使用したナイロンロープの性能だけでなく、搭載機器の安定性やドローンの操作性能の両面のおかげで実現でき、この実証が円滑に進められたという。

東大生研が公開している今回の実証実験の様子

将来のAUVなどの投入・回収行動を行うUAV海面基地とは?

横田准教授は、別で以下のような研究、検討もされている。

それは、ドローンからAUVや海中・海底観測装置を海へと投入し、そして回収するものだ。

下図の(e)、(f)では、ドローンが海面から少し離れたところからAUVや海中・海底観測装置を投入するものと、海面に着水してAUV、海中・海底観測装置を投入する様子が描かれている。

そしてAUV、海中・海底観測装置は、海面に着水したドローンにドッキングもしくは、回収ボックスなどで回収される。今後、実験を実施される予定とのことだが、技術的にとても興味深い。

しかし、ドローンとAUV、海中・海底観測装置のドッキングの技術よりも、このイメージを実現するための課題はAUV、海中・海底観測装置の荷重だという。

通常、AUV、海中・海底観測装置は、沈めるために、重く作らなければならないがドローンはエネルギーロスが小さくなる観点から軽く作る。この相反する課題が、今後の最大の課題だという。

  • 東京大学

    将来のAUVなどの投入・回収行動を行うUAV海面基地のイメージ(出典:東京大学)

いかがだっただろうか。横田准教授の目標は、AUVを自在に扱うことではなく、海洋観測から船舶が消えることだと、我々に判りやすくご教示いただいた。

このように若くして新しいフィールドを切り開いている才気煥発な横田准教授だが、学生時代のエピソードをお伺いすると以下のような意外なエピソードをお伺いできた。

「博士課程1年の学生時代に下の親知らずを2本抜いた際に2週間で一度にやったためにおたふくみたいな顔になって、抜いた日は人生で最高に頭が痛くて、家にも帰れないので、漫画喫茶で泣いて我慢しました。お金がかかっても学生時代から定期健診に行って早めに処置した方がいいと思います」

そんなご自身の経験談も交えながら健康面でのアドバイスいただき、横田准教授のお人柄も垣間見える非常に貴重な取材だった。

【今回お話をうかがった研究室】

■東京大学生産技術研究所 海中観測実装工学研究センター 横田裕輔研究室