東北大学は11月30日、大強度の高エネルギー光子ビームを重水素標的に照射する実験で、クォーク・反クォーク対である「η(イータ)メソン」と、重水素の原子核である「重陽子」(陽子1個+中性子1個)が強く結合した状態の生成、ならびにその観測に成功したと発表した。
同成果は、東北大 電子光理学研究センター(ELPH)の石川貴嗣助教、高エネルギー加速器研究機構の小沢恭一郎准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、物理学を題材とした「Physical Review」シリーズのうち、理論的および実験的な原子核物理を扱う学術誌「Physical Review C (Letters)」に掲載された。
現在、物質を構成する最も基本的な粒子として考えられているのがクォークとレプトンであり、レプトンには電子やニュートリノ、ミューオンなどがあることが知られている。一方、クォークは単体で存在することができず、強い力におって複数が結びつき、粒子のハドロンを構成。ハドロンには、クォーク3個からなるバリオン(陽子と中性子の核子)と、クォークと反クォークからなるメソンの2種類があり、メソンは単体で放出され、バリオン同士を結び付ける役割を果たすが、原子核の構成要素として表に現れることは、これまで考えられてこなかったという。
今回、研究チームでは、大強度エネルギー標識化光子ビーム(γ)を液体重水素標的に照射することで、重陽子の励起状態を生成。励起状態の同定を、最後にπ0メソン、ηメソン、重陽子(d)のすべてを見出す反応で実施。従来のハドロン生成反応では、数100MeV以上の高エネルギー粒子を標的物質に照射していたが、これだと大きなバックグラウンドとなりうる準自由過程が発生し、観測を難しくしていた。しかし、今回の光子ビームを重水素標的に照射し、最後に重陽子と2つの中性メソンを見出す反応では、準自由過程が抑制され、高い励起状態が観測しやすくなることが確認され、これは先行研究からも示されていたという。
実験からは、最後に重陽子と2つの中性メソンを見出す反応で見られたπ0メソンと重陽子の共鳴状態に加えて、ηメソンと重陽子の結合状態がはっきりとピークとして観測されたという。研究チームによると、このηメソンと重陽子の結合状態の存在は、陽子や中性子が原子核内部で激しく運動する励起状態から、ηメソンが原子核の構成要素として発現したことを表すものであるいう。
なお、研究チームでは、今回、ηメソンと重陽子が強く結合した状態を生成することに成功したことで、ηメソンと重陽子の間に強い引力が働いていることが明らかにされたとする一方で、観測された状態が強固な結合の束縛状態なのか、一時的に緩く結合した共鳴状態なのかは明確にできなかったとする。
そのため今後は、さまざまな原子核とηメソンとの結合した状態を系統的に調べることで、ηメソンと原子核の相互作用を明らかにしていくことで、強い力の重要な性質である「クォークの閉じ込め問題」についての情報が得られることが期待されるとしているほか、原子核を束縛する核力の理解を深めていくことで、いまだによく理解されていない核物質の状態方程式や中性子星の内部構造の理解促進につなげたいとしている。