東京理科大学(理科大)と東北大学は11月19日、Au-Ga-Gd系およびAu-Ga-Tb系合金が正二十面体準結晶であること、ならびにこれらの合金が長距離磁気秩序(強磁性秩序)を有することを明らかにしたと発表した。
同成果は、理科大 先進工学部 マテリアル創成工学科の田村隆治教授、同・石川明日香技術員、同・鈴木慎太郎助教、Australian Nuclear Science and Technology OrganisationのMaxim Avdeev博士、東北大 多元物質科学研究所の佐藤卓教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米化学会の機関誌である「Journal of the American Chemical Society」に掲載された。
周期結晶は、長距離にわたって周期構造を有する固体であり、幾何学的観点から、その回転対称性には1回、2回、3回、4回および6回対称があり、それ以外の対称性では空間を充填することは不可能であると考えられてきた。一方で、準結晶は結晶には不可能な5回、8回、10回対称などの回転対称性を有する準周期構造を形成していることが明らかにされ、従来の結晶と異なる物性を有する材料として期待され、世界各地で研究が進められている。
研究チームは準結晶に関する長年の研究から、結晶中の電子と原子の比率(e/a比)が準結晶の磁性に重要であることを報告している。また、e/a比と磁性との相関調査から、e/a比が約1.70となるときに、強磁性体が得られる可能性が示唆されていたことから、今回の研究では、調査対象をe/a比が約1.70になるようなAu系合金に絞って調査を実施。その結果、「Au65Ga20Gd15」と「Au65Ga20Tb15」の組成を有する合金が有力な候補として挙げられたという。そしてX線回折法と中性子回折法の結果から、これらの結晶構造が正二十面体型の準結晶であることが判明したという。。
また、これらの材料の磁化率xと比熱Cpの温度変化を測定した結果、各準結晶のキュリー温度Tcは、Au65Ga20Gd15では23.4K(約-250℃)、Au65Ga20Tb15では16.0K(約-257℃)と決定され、その温度付近で強磁性転移が生じていることが確認されたとする。
さらにワイス温度θ(各スピンに働く有効磁場の符号と大きさを表す)については、Au65Ga20Gd15では27.9K(約-245℃)で、Au65Ga20Tb15では12.9K(約-260℃)という結果が得られたとした。
ちなみにワイス温度には正負があるが、これまで確認されてきた準結晶は負の値を取るものが多かったが、今回の値はそれらとは反対の正の値であり、強磁性体であることを示すものであったとする。
今回の結果を受けて研究チームでは、反強磁性、強磁性、スピングラスなど、さまざまな磁気特性を有する準結晶、近似結晶をコントロールして合成することが可能になることを意味するとしており、新たな磁性材料の獲得への応用が期待されるとしている。
なお、今回の研究成果について、理科大の田村教授は「磁性を有する準結晶が一体どのような特異な振舞いを示すのかに関しては、今のところ理論も含めてまったくわかっていません。今回の研究成果は、準結晶の有する準周期性に由来する特性を解明することにつながり、ひいては学術の発展に大きく役立つものであると考えています。強磁性準結晶に限ると、結晶よりも遥かに高い対称性を有するため、究極の軟磁性体への応用が期待できます」とコメントしている。