車載半導体の不足はますます悪化しており、完全回復時期が後ずさりしているとの分析結果を米国の半導体市場調査コンサルティング会社であるSemiconductor Intelligence(SI)が発表した。
半導体不足の完全解消は2023年にずれ込む可能性
車載半導体が不足していることに起因し、世界中のほとんどの自動車メーカーは程度の差こそあれ減産に追い込まれる状況が続いている。9月に開催された独Munich Motor Show(ミュンヘンモーターショー)にてDaimler CEOのOla Kallenius氏は、「2021年第3四半期の売り上げは低下する。半導体供給が第4四半期にやや改善することを期待しているが、半導体不足が2022年の自動車生産に影響を及ぼし、自動車業界が完全に回復するのは2023年だろう」と述べた。また、Ford EuropeのGunnar Herrmann会長は、半導体の不足はIoTなどほかのアプリケーションからの強い需要のために2024年まで続く可能性があると述べている。
台湾のハイテクメディアDigiTimesは、車載半導体の不足は2022年半ばまでは解決されないと予測している。英国の市場動向調査会社であるIHS Markitも、車載用マイコンの供給は2022年第2四半期まで需要に追いつかないと予測している。
またIHSは、2021年9月に、世界の小型商用車販売に関する予測を4月時点のものから引き下げ、2022年の販売台数を2019年比で7%下回る8260万台と修正。自動車市場の完全回復は2023年以降との見通しを示した。
JITからJICへの移行で過剰在庫が発生か?
SIは、車載半導体不足のそもそもの原因として、自動車メーカーが自動車生産と半導体の注文を2020年前半に急激に削減したことにあると指摘している。このため、半導体メーカーは生産能力をほかの分野の製品に振り分けてしまったことから、車載半導体不足が生じることとなった。自動車の需要が回復しても半導体の生産には数カ月かかるため、半導体メーカーはすぐには対応できない構造になっている。
もう1つの要因は、自動車メーカーが伝統的にジャストインタイム(JIT)の在庫管理システムを採用してきたことだとしている。元祖JITのトヨタ自動車だけは、JITをやめて数か月分の在庫を確保していたというから驚きである。自動車各社は在庫を持たなかったことを反省して、半導体などの重要な材料の安全在庫を持つように、JITをジャストインケース(JIC:重要なコンポーネントの在庫を状況に応じて保持する方式)に移行しているが、この動きにより、車載半導体のサプライチェーンの一部で異常ともいえる在庫の積み増しが進んでいる可能性があるとして米国商務省が調査を始めている。