火力発電で用いられる石炭価格の高騰などを受けて発電所を止める事態となっている中国では、幅広い地域で停電が発生するようになっている。

ディスプレイ市場動向調査会社DSCCの中国上海オフィスによると現在、20ほどの省で電力消費の規制が行われており、一部の省では工場の操業率を下げるよう命令が下り、操業停止に追い込まれる工場も出ているが、今のところFPDそのものの製造には影響が出ていないという。同様に、必要不可欠の事業(Essential Work)に指定され、新型コロナウィルスの感染拡大中でも稼働が許可された半導体工場も操業停止に関する情報は今のところ明らかになっていないという。しかし半導体やFPD向け素材を製造する工場などでは電力規制による影響が出始めており、減産を余儀なくされた素材の価格が高騰し始めており、世界的に不足している半導体デバイスの供給不足にいずれ拍車がかかる可能性も出てきたという。

  • 中国電力事情

    中国各省地方政府の電力消費制限状況。省によって電力消費制限にはまだかなりの差があるが、赤字表記の省では、稼働率大幅低下や操業停止せざるを得ない工場が出ている (出所:中国環境省のデータをもとにDSCCが作成)

DSCCによると、半導体やFPD素材として用いられる金属の中でも精製に電気を大量に消費するAlの生産が最も影響を受けているという。今後、Mn、Si、Cr、Ni、Cu、Pd、Mg、Auなどの生産も影響を受けそうだとするほか、化学薬品やSiH4、BCl3をはじめとする特殊ガスの価格も影響を受け始めているという。

シリコン基板の原料である金属シリコン価格が300%高騰

中国はシリコンウェハの材料である金属シリコンの主要生産国の1つであるが、原材料である珪石を溶融精錬するために莫大な電気を消費するため、電気の消費が制限された内陸地域にある金属シリコンメーカーは大幅な減産を余儀なくされる状況になっている。もともと半導体デバイスの需要急騰で生産が追い付いていなかったこともあり、その価格は2か月足らずで300%上昇したと経済メディアであるBloombergが10月1日付で報じている

それによると、金属シリコン工場のある雲南省では、9月~12月は8月の水準より90%の減産を命じられているため、従来、1トンあたり8000元~1万7000元であった金属シリコン価格は、現在では6万7300元にまで値上がりしているという。

2020年後半から顕在化してきた世界的な半導体不足は、世界的な半導体需要の急増や、在庫積み増しや多重発注、そして新型コロナウウィルス感染症の感染拡大に伴う東南アジアの都市封鎖による後工程工場の操業停止や台湾の水不足や停電などが原因とされているが、そこにシリコン基板原料を始めとする半導体製造用素材の減産が追い打ちを掛ける形になりつつあり、半導体不足の長期化が懸念される事態となっている。