SEMIジャパンは、8月度半導体ビジネスアップデートセミナ「米中対立の行方とサプライチェーンのシナリオ」をオンラインで開催し、その中で、英国の市場動向調査会社Omdiaのコンサルティングシニアディレクタの南川明氏が「米中半導体摩擦の影響 - ポストコロナで加速するDXとカーボンニュートラルも同時並行」と題して講演した。
まず同氏は、バイデン政権の米国半導体強化策のもとになっている米国半導体製造に関するSIA(Semiconductor Industry Association)の調査報告を紹介し「5兆円規模の巨額なインセンティブ(政府補助金)こそが、米国での半導体チップ生産の衰退という数十年にわたる凋落軌道を逆転させ、今後10年間で主要な米国内半導体製造ファブで7万人の雇用を創出することが可能になると結論付けている」と述べた。調査報告書の主要な指摘としては、以下の3点があげられる。
- 半導体製造は、経済競争力、国家安全保証、およびサプライチェーンの回復力にとって重要であり、人工知能、5、量子コンピューティングなど将来の戦略的テクノロジーが軍事的リーダーシップを決定する。
- 中国政府が自国の半導体新興に向けて10兆円もの補助金を投じており、2030年までにチップ生産シェアで世界最大になると予測される。
- 米国に半導体チップ製造を復活させ、数万人の米国の雇用を創出するには、半導体製造に対する連邦政府のインセンティブが必要である。合計52億ドル(約5兆7000億円)の連邦製造業補助金と減税が実現すれば、今後10年間で米国に19のファブが構築され、製造シェア(世界の半導体製造額に占める米国国内での半導体製造高)が現状の12%から27%へ増加することが期待される。
中国の巨額インフラ投資で半導体需要急増
南川氏は、中国の産業投資について、「中国はインフラ投資で世界経済のけん引役になっている。10年前の2010年から5年計画で高速鉄道、高速道路、高層ビルに60兆円投資して、リーマンショック後の世界経済をけん引した。2020年からは社会インフラに170兆円投資して欧米を引き離そうとしている。具体的には、5G通信基地局、データセンタ、AI、IIoT、新エネ自動車の充電設備、高速鉄道、高電圧送電網への投資で、スマートシティの構築を目指し、一帯一路の国々に売り込もうとしている。このために、中国国内でインフラ向けパワー半導体、メモリはじめ巨額の半導体需要が生じている」と述べたほか、「中国への半導体設備投資はこの5年間拡大傾向が継続している。中国はレガシープロセスへの投資比率が高い。2020年の中国勢による国内半導体製造シェアは、昨年、世界の4%に過ぎなかったが、5年後には10%を超える可能性がある」と述べた。
米中デカップリングへの対処法は?
また、南川氏は米中のデカップリング(分断)の動向とその対処法について、「米中のデカップリングは、政治的には長く続く話だが、経済面では、デカップリングするものとデカップリングしないものがある。先端技術に関しては、米国政府の中国企業への制裁でデカップリングがしばらく続く。しかし、米国政府が規制する先端分野以外では、米国企業にとって中国は最大市場であるためサプライチェーンを分断することなどできない。例えば、Appleは、200社の部品ベンダーから購買しているが、そのうち中国企業が51社と最も多く、台湾勢を抜く状態となっており、今後もAppleが採用する中国ベンダーの数は増えることが見込まれる。こうした動きからわかるように、世界のサプライチェーンは経済的な観点から今の姿がある。これをゆがめようとするとコストが高くなってしまう。だから経済面での米中デカップリングは長くは続かない。コストは必ず最適化される方向に動く。デカップリングしない部分をきちんと見極めてどのようにアプローチするか、どのように付き合っていくかを対外的に発信する必要がある。ふらふらしてるとどこからも信頼されない。しっかりとした戦略を立てて、デカップリングしない部分に関しては中国とももっと深く手を組んでいくべきである」と方向性を示した。
半導体不足はいつまで続く?
さらに南川氏は、車載半導体不足について、「半導体企業各社が車載向けに生産能力を優先的に割り当てたので、8~9月ころから車載半導体の出荷は多くなることが見込まれるため、今秋には、車載半導体不足は緩んでくる。しかし、生産能力の割り当てが減らされたほかの分野にしわ寄せがいくことになるので、全体的な半導体不足は2022年後半にならないと解消しない」との見方を示したほか、「自動車業界は伝統的にJIT(Just-in-Time)と呼ばれる在庫を持たないやり方を採ってきたが、今後は通用しないことが見えてきたため、BCP(Business Continuity Planning)を立てて在庫を確保する方向に動いている」と、自動車業界の変化を指摘した。
なお、南川氏は、「ポストコロナでDX(デジタルトランスフォーメーション)とカーボンニュートラルが同時並行で進んでおり、世界経済成長の原動力となろうとしている。米中デカップリングばかりに目を奪われていてはいけない」と述べ、巨額の政府資金が動くこのメガトレンドに乗る必要性を強調した。