岡山大学は8月11日、カーボンナノチューブ(CNT)に六方晶窒化ホウ素(hBN)を合成した新規材料「一次元hBN/CNTヘテロ構造」の大規模集合化(バルクスケール化)に成功し、その新規材料において脳のシナプスのような“メモリスティブな”振る舞いを発見したと発表した。

同成果は、岡山大大学院 自然科学研究科(工)の岸淵美咲大学院生、岡山大 学術研究院 自然科学学域の鈴木弘朗助教、同・林靖彦教授らの研究チームによるもの。詳細は、米化学会発行の電子材料に関する材料科学や工学、光学、物理学、化学などを扱う学術誌「ACS Applied Electronic Materials」に掲載された。

六方晶窒化ホウ素(hBN)は、ホウ素と窒素で構成される絶縁性の層状物質で、CNTの結晶にとても近い構造を有する。CNTにそのhBNを合成した「一次元hBN/CNTヘテロ構造」は、2020年に発表された新規ナノ構造だという。

一次元hBN/CNTヘテロ構造は、CNTとhBNという異なる物質同士が分子間引力の「ファンデルワールス力」によって積層(接合)されていることから、ファンデルワース力により実現しているヘテロ構造ということで「一次元のファンデルワールスヘテロ構造」とも呼ばれている。

これまで、CNTは大規模集合化(バルクスケール化)の手法と、デバイス化に関する研究が進められてきており、新規材料である一次元hBN/CNTヘテロ構造に関してもバルクスケール化と、デバイス化につなげるための特性評価が求められていたという。

そこで研究チームは今回、一次元hBN/CNTヘテロ構造のバルクスケール化を試み、チューブ軸方向に配向性を保ったまま、CNTを無数により合わせて作成された「CNT紡績糸」やCNTシートに対してhBNを直接合成することで、一次元hBN/CNTヘテロ構造のバルクスケール化を実現したとする。

この成功を受けて、バルク構造体の結晶構造解析や電気特性評価が行われた結果、CNT上に新しいhBN層が形成されていることが確認されたほか、hBNの層構造に欠陥や乱れがある場合、電流-電圧特性に大きなヒステリシスが生じることが判明)。このようなヒステリシスは、「メモリスタ素子」の動作原理になっているという。

  • CNT

    (a)CNT紡績糸の走査型電子顕微鏡像。(b)hBN/CNTヘテロ構造の透過型電子顕微鏡。(c)hBN/CNT紡績糸の電流-電圧特性。(d)hBN/CNT間に流れる電流経路のモデル図 (出所:共同プレスリリースPDF)

しかし、このようなメモリスタ的振る舞いの原因が不明であったことから、さらなる研究として複数の検証実験と量子化学計算が行われ、ヒステリシスの発現モデルが提唱されることとなった。

今回観測された特異な電気的振る舞いは、メモリスタとしての動作を示しているという。また、このメモリスタ動作がフレキシブルなワイヤー形状において確認できたということは、フレキシブルデバイスへ実装できる可能性が示されたということであり、将来のIoE(Internet of Energy)社会に貢献することができると研究チームでは説明しているほか、メモリスタはシナプスを模倣した回路動作が可能であるため、人間の脳と同じ思考回路を持つニューロモルフィック(神経形態学的)コンピューティングを実現するための鍵となるとしている。