理化学研究所(理研)と名古屋大学(名大)は7月12日、中間質量星の周りにある原始惑星系円盤のガス散逸過程をシミュレーションし、これまで数百万年と見積もられていた円盤の寿命がそれよりも10倍程度長い可能性があることを示したと発表した。

同成果は、理研 開拓研究本部坂井星・惑星形成研究室の仲谷崚平基礎科学特別研究員、名大大学院 理学研究科 理論宇宙物理学研究室の小林浩助教、独・テュービンゲン大学のロルフ・コイパー氏(研究当時)、国立天文台 科学研究部の野村英子教授、東京大学 大学院理学系研究科 天文学専攻の相川祐理教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に掲載された。

太陽系を含めた惑星系は、宇宙空間を漂うガスと固体微粒子(塵)で構成される分子雲が、近隣で起きた超新星爆発など、何らかの影響を受けて密度に差ができ、密度の高い部分が重力でさらに周囲の物質を集めるようになり、重力収縮が加速していくことで始まると考えられている。

分子雲の中心で若い星(原始星)が生まれ、その周囲に残った分子雲は薄い円盤を形成。その後も円盤から物質が星に向かって流れていくことで、原始星は成長していき、やがて100万年ほど経つと、元あった質量の約99%以上を星が保有し、残りを円盤が保有するようになると考えられている。この1%程度の残りの円盤物質は「原始惑星系円盤」と呼ばれ、惑星はその1%の材料から形成されていくと考えられている。

太陽系も99%以上の質量が太陽に集中しており、残りの1%に満たない物質で、木星や土星などの巨大ガス惑星も含めた8つの惑星や準惑星、無数の小天体などが構成されている。

太陽系を見ても分かるが、誕生してからおよそ46億年も経つとガスに富んだ円盤を見ることができないため、そうした円盤には寿命があると考えられており、これまでの研究からその寿命は300万~600万年と見積もられている。

しかし、近年の観測機器の性能向上により、300万~600万歳を超えてもガスを有している「ガスリッチデブリ円盤」と呼ばれる円盤が、20天体ほど存在することが確認されるようになっており、そのガスの起源は未だ不明で、現在、2つの説が提唱される状態となっている。

1つは原始惑星系円盤のガスが何らかの原因により生き残ったとする「始原ガス説」、もう1つは形成した原始惑星や微惑星の衝突によりガスが発生したとする「二次ガス説」で、後者については、これまで多くの理論研究が行われており、二次ガス説でガスの起源を説明できることが示されてきたが、前者の始原ガス説については研究報告がほとんどなく、説の正否についてはまったくわかっていなかったという。

誕生から数百万年以上経った原始惑星系円盤の散逸には、中心星から放射される紫外線やX線などによる加熱でガスが蒸発していく「光蒸発」と呼ばれる現象が効果的であることが先行研究で示されている。

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    現在の標準的な星惑星形成過程の模式図。分子雲の高密度部分での重力収縮により星形成は始まる(左)。約1万から10万年後、若い星を取り囲むように星周円盤が形成される。それらを取り囲むようにエンベロープが存在する。約100万年後に、エンベロープ降着が完了し、星と原始惑星系円盤からなる系になる。円盤はおよそ1000万年かけて消失し、原始惑星系が残される。惑星は円盤物質を材料に形成される (出所:名大プレスリリースPDF)

研究チームは今回、こうした物理過程のシミュレーションを行うことで、円盤の正確な寿命を理論的に導出し、始原ガス説の検証を試みることにしたという。

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    原始惑星系円盤における光蒸発の模式図(中心星を取り囲む原始惑星系円盤の断面図)。中心星から放射される紫外線・X線により円盤ガスが加熱され、光蒸発流が駆動される。この過程により円盤を構成する物質が流出し、円盤がなくなっていく (出所:名大プレスリリースPDF)

独自開発の計算コードを元に、ガスリッチデブリ円盤が比較的頻繁に見つかる、質量が太陽の2倍ほどある中間質量星の円盤について、光蒸発過程のシミュレーションが実施されたところ、中間質量星における数百万歳以上の円盤では、13.6eV~100eVの極紫外線が光蒸発に寄与することが判明したほか、円盤質量が太陽質量の約0.1%以下(地球質量の約300倍=およそ木星1個分以下)だと、光蒸発によるガス流出率が100万年あたり地球3個分程度と、かなり低い値になることも判明。その流出率が円盤寿命に換算されたところ、数千万年~1億年と導かれたという。

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    中間質量星周りの原始太陽系円盤における光蒸発シミュレーションの例。蒸発している原始惑星系円盤の2次元密度分布(左)と温度分布(右)。横軸、縦軸は中心星からの距離で、単位は天文単位(au)。1auは太陽~地球間の距離に由来し、およそ1億5000万km。矢印は蒸発流の流れが示されている。蒸発流は円盤に比べて密度が低く、絶対温度で数千~1万Kと温度が高いことが見て取れる (出所:名大プレスリリースPDF)

なお観測的な見地からすると、約5000万歳を超えるガスリッチデブリ円盤は比較的発見例が少ないことから、今回行われた研究で得られた流出率は、この統計的観測事実とも整合するものだとしている。

比較のため、太陽型星(太陽質量と同程度の質量を持つ星)が中心星として設定され、同様のシミュレーションを実施したところ、流出率は中間質量星の円盤に比べ、20~30倍大きくなることが判明。円盤寿命は中間質量星の方が太陽型星よりも長くなることが示されたとする。

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    今回の研究結果から提案される星質量に応じた円盤質量の時間進化。水色線は太陽型、青線は中間質量星の円盤質量進化を示す。先行研究により、円盤が形成された最初の数百万年は、光蒸発以外のガス散逸プロセスが優勢であることが明らかとなっている。それ以降は、光蒸発が優勢になり、星の極紫外線光度の違いに起因するガス流出率の違いが生まれる。その結果、中間質量星の方が極紫外線光度が低いため、結果的にその周りにある円盤の寿命が長くなる (出所:名大プレスリリースPDF)

今回の研究結果は、これまで未解明だったガスリッチデブリ円盤の統計的性質についても、始原ガス説に基づくと自然に説明を与えられることを明らかにしたものだと研究チームでは説明する。ただし、今回の成果は二次ガス説を否定するものでもないという点も研究チームは強調しており、その理由として、始原ガスを残しながら、惑星がガスを放出するような描像も考えられるためとしている。そのため今後は、そのような始原ガス説・二次ガス説をハイブリッドさせたような観点からガスリッチデブリ円盤の起源を探ることも重要だとしている。