2021年のHot Chips(HC33)は8月22日(日)から開催され、22日はチュートリアル、23日が本会議初日、24日が本会議2日目の最終日である。この形式は、ずっと変わっていない。

HC33は新型コロナのためにバーチャル形式で開催され、参加費は、IEEEの会員は100ドル(8月6日までのEarly Registrationの場合)とリアル開催と比べて大幅に安くなっている。

本会議の最初のセッションは「CPU」で、AMDの次世代のZen 3コア、IBMの次世代メインフレームCPU、Intelの次世代のサーバ向けCPUのSapphire Rapidsと各社のハイエンドCPUが発表される。また、Intelのデスクトップ向けの次世代CPUのAlder Lake CPUも発表される。

そして、最近、データセンタ向けのCPUを補助してセキュリティや処理性能を高めるプロセサが注目されてきており、 NVIDIAはData Center Processing Unit(DPU)を発表する。そして、IntelはHyperscale-Ready SmartNIC for Infrastructure Processingと題する発表を行う。NVIDIAのDPUはデータの入力部分に専用のプロセサを置いて、CPUの負荷をオフロードしてセキュリティ処理などを行うものである。IntelのものはSmartNICという名前になっているが、似たような処理を行うユニットであると思われる。また、このセッションでは、ArmがNeoverse N2プロセサを発表する。

本会議2日目は、クラウド向けのML Inferenceエンジンのセッションで幕を開ける。トップバッターは永らくステルスモードで活動していたEsperanto TechnologiesのET-SoC-1である。ET-SoC-1は、RISC-Vコアのプロセサを1チップに1000コア以上を搭載する。

2番目の発表は、中国のEnflameというスタートアップである。中身についてはほとんど情報が無く、Hot Chips 33での発表が初の情報開示となる。しかし、中国のWebジャイアントのTencentが投資していることから、注目されている。

3番目のML Inferenceエンジンの発表は、QualcommのCloud AI 100である。12TOPs/Wという低電力のエッジ用のAIアクセラレータを実現できるエンジンである。

2番目のセッションはMLと計算プラットフォームのセッションである。このセッションではGraphcoreのColossus Mk2 IPU、Cerebrasのマルチウェハのシステム、SambaNovaのSN10 RDUとD.E.Shaw ResearchのAnton 3が発表される。

GraphcoreのColossus Mk2 IPUはNVIDIAのA100 GPUと同規模のAIエンジンを搭載する。そして、マルチチップ、マルチラックの高性能のAIシステムを提供している。SambaNovaもすでにマルチラックの大規模のAIエンジンの提供を行っている。

Cerebrasは直径300mmのウェハをまるまる1枚使うWafer Scaleエンジンを完成しており、米国の国立研究所や、大企業の研究部門などにシステムを納入している。これまでは1枚の300mmウェハのシステムであるが、今回のHC33では、複数枚のウェハを使用する大規模なシステムを発表すると見られる。

これらの3社は高性能AIプラットフォームの開発では先頭を走っていると考えられるスタートアップである。

D.E.Shaw ResearchはAntonという分子動力学の計算エンジンを自前で開発して、たんぱく質の折り畳みのシミュレーションなどを行っている。最近ではGoogle、Microsoftなどが自社用のアクセラレータチップを作っているが、初代のAntonは2008年に完成しており、D.E.Shawは専用チップの開発ではGoogleなどよりずっと先行している。

その次のセッションはGraphics and Videoのセッションで、IntelのハイエンドGPUのPonte Veccio、AMDの第2世代のRDNA2グラフィックスアーキテクチャが発表される。これらはAIエンジンとも関係が深く、どのようなアーキテクチャであるのか興味深い。

そして、Google(YouTube)のVideo Coding Unit(VCU)というアクセラレータが発表される。VCUはビデオのコーディングフォーマットの変換や解像度などの変換の処理を行う専用エンジンである。

Graphics and Videoのセッションの最後の発表はXilinxの7nm Edge Processorsという発表である。

Hot Chips 33の最後のセッションはNew Technologiesというセッションで、Mojo LensというARコンタクトレンズ、全方向オートフォーカスレンズ、指より高感度なナノタクタイルセンサー、そして、最後の論文発表はIonQ社の量子コンピュータの発表である。イオントラップ型の量子ビットの方が安定度が高く、最近、集積できる量子ビット数も向上していることから、IonQの量子コンピュータに注目が集まっている。

このようにHC33には興味深い発表が集まっている。バーチャル開催で、自宅のパソコンから参加できるので、先端情報処理チップの研究開発状況に触れて戴くのもよいのではないだろうか?

なお、学生ならIEEEに入っていなくても参加費は50ドル(Early)と負担も安くなるので、さらにお得である。