産業技術総合研究所(産総研)は6月4日、産総研 プラットフォームフォトニクス研究センターで開発した「シリコンフォトニクス光スイッチ」におけるポート(経路)間クロストークの影響を詳細に解析することで、13万1072ポートの光スイッチネットワークにおいて光スイッチ総容量1.25億Gbpsを達成できることを示したと発表した。

同成果は、産総研 プラットフォームフォトニクス研究センターの松本怜典研究員らの研究チームによるもの。詳細は、6月6日から6月10日までオンラインで開催される国際会議「The Optical Networking and Communication Conference & Exhibition 2021(OFC2021)」で発表される予定となっている。

通信端末の増大に伴う通信容量とそれに伴う消費電力の増大が、今後のさらなるネットワーク活用を進めていくうえでのボトルネックとなりつつある。そのための解決策の1つとして、より効率的なスイッチ技術の実現が求められている。

そうしたスイッチ技術の1つとして期待されているのが「光スイッチ」で、電気スイッチよりも高いエネルギー効率を示すことから、光ネットワークやコンピューティング領域などにおいて大容量データの転送経路を高速に切り替える動的再構成の場面で有用であり、電気スイッチの負荷を軽減する重要な技術として期待されている。 また、データセンターやスーパーコンピュータの大規模化が進んでおり、10万を超すポートへの対応も求められるようになっている。そうした背景から産総研では、これまで複数のスイッチを直列に接続するネットワーク構成である「クロス構成」による512ポート、150万Gbps相当までの拡張性を確認してきたという。クロス構成を活用することで、例えば、32×32ポート光スイッチを3段、9段縦続に接続した場合には、それぞれ512×512ポート、13万1072×13万1072ポートを構築することができるようになる。

しかし、このような大規模化に伴い、ポート間クロストークの影響が大きくなるため、光スイッチによるクロス構成において、どの程度のポート数やエネルギー効率が達成され得るかは未解明だったという。

そこで松本研究員らは今回、シリコンフォトニクス32×32ポート光スイッチを用いて、性能の制限要因となるポート間クロストークの影響についての詳細な解析を実施したという。その結果、13万1072ポートの光スイッチネットワークにおいて、総容量1.25億Gbpsの伝送を達成できることが示されたという。

  • 光スイッチ

    光スイッチを活用した次世代大規模データセンター・スーパーコンピュータ構成のイメージ (出所:産総研Webサイト)

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    (a)光スイッチなしの送信波形。(b)9段通過後の送信波形。それぞれ左のグラフはスペクトル、右は信号点配置 (出所:産総研Webサイト)

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    ビット誤り率(6~9段伝送後)の推定値と実測値 (出所:産総研Webサイト)

さらに32×32ポート光スイッチのポートをすべて占有した場合のエネルギー効率は、1スイッチあたり0.06pJ/bitであることも確認された。これは最先端の電気スイッチを用いたクロス構成よりも100倍以上も高いという。

  • 光スイッチ

    関連するスイッチの容量、エネルギー効率、ポート数の比較 (出所:産総研Webサイト)

また今回は、光スイッチの規模にかかわらず、常に高い精度でクロストークを推定する方法が考案されたという。既存技術はクロストーク振幅を正規分布と仮定するため、クロストークがもたらす性能劣化を過剰に見積もるという欠点があったが、今回の方法では、いかなるポート数でも実際とよく一致し、クロストークが光スイッチに与える影響を精度よく分析できたという。

なお、今回の実験結果について研究チームでは、コンピューティング領域などにおいて大容量データの転送経路を高速に切り替える場面で有用だとしており、これにより、電気スイッチの負荷を軽減することで、次世代データセンターやスーパーコンピュータの高性能・省電力化につながることが期待されるとしている。

なお、今後は、今回の成果の情報発信を進め、実用化・量産化に向けた技術開発を継続する計画としているほか、シリコンフォトニクス光スイッチのさらなるポート数や総容量の拡大を目指すとしている。