米国航空宇宙局(NASA)は2021年5月11日、小惑星探査機「オサイリス・レックス」が、探査していた小惑星ベンヌを離れ、地球への帰路についたと発表した。

オサイリス・レックスは2018年にベンヌに到着。昨年10月には地表に着地し、サンプル(石や砂などの試料)の採取にも成功した。探査機はこのサンプルを携え、2023年9月23日の地球帰還を目指した新たな旅に挑む。

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    ベンヌから離脱するオサイリス・レックスの想像図 (C) NASA/Goddard/University of Arizona

オサイリス・レックス

オサイリス・レックス(OSIRIS-REx)は、NASAが開発した小惑星探査機で、小惑星「ベンヌ(Bennu)」を探査し、さらに塵や石などのサンプルを回収して地球に持ち帰ることを目指している。

ベンヌは、1999年に発見された小惑星で、地球近傍小惑星のひとつであるアポロ群に属する。直径は約560mで、有機物(炭素を含む化合物)や水を多く含むC型小惑星の一種であるB型小惑星に分類されている。

オサイリス・レックスの探査を通じ、いまから約46億年前からこれまでに太陽系に何が起きたのか、地球の水はどのようにもたらされたのか、そして私たちのような生命はどのように生まれたのかなどといった謎について、理解を深めることができると考えられている。

また、現在のベンヌの軌道は、将来的に地球に衝突する可能性がわずかにあることから、その備えや防御策を考えるのにも役立つと期待されている。

オサイリス・レックスは、NASAとロッキード・マーティン、アリゾナ大学などが開発した。打ち上げ時の質量は約2110kgで、同じようなミッションを背負った日本の小惑星探査機「はやぶさ2」の約3.5倍にもなる。

探査機には、ベンヌのまわりからその表面や内部を調べるためのカメラやセンサーのほか、「TAGSAM(Touch-and-Go Sample Acquisition Mechanism)」と呼ばれる、サンプルを採取するための装置を搭載している。

オサイリス・レックスは日本時間2016年9月9日、フロリダ州のケープ・カナベラル空軍ステーションから打ち上げられた。1年後には地球をスイングバイし、ベンヌへ向けた軌道に投入。そして2018年12月3日にベンヌに到着し、同31日にはベンヌの上空約1.61kmを回る周回軌道に入った。

オサイリス・レックスが到着するまでは、地上からの観測や理論モデルなどから、ベンヌの地表はなめらかで、大きな岩はあっても数は少ないと予想されていた。しかし実際には、大きな岩がいくつもあり、険しい地形が広がっていることが明らかになった。そのため運用チームは、当初の予想より狭い場所に正確にタッチダウンするため、航法システムの改良に奔走した。

さらに、ベンヌの地表からは小さな岩石の破片が飛び散っており、探査機に危険を及ぼす懸念もあったことから、運用チームはその対処にも追われた。

そして2020年10月21日、タッチダウンに成功。採取装置の内部は塵や石でいっぱいになり、目標としていた60gをはるかに超える量のサンプルを採取することに成功した。

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    ベンヌの地表からは小さな岩石の破片が飛び散っており、探査機に危険を及ぼす懸念もあったことから、運用チームはその対処に追われた (C) NASA's Goddard Space Flight Center

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    オサイリス・レックスが小惑星ベンヌに着地した瞬間の画像。塵や石が飛び散り、サンプル採取装置に取り込まれる様子が写っている (C) NASA's Goddard Space Flight Center

2年半かけて地球帰還へ

オサイリス・レックスはその後、地球への帰還に向けた準備を開始。ベンヌの地球との位置関係から帰還に適したタイミングを待った。そして、日本時間5月11日5時23分(米東部夏時間10日16時23分)、メイン・エンジンをフルスロットルで約7分間噴射しベンヌから離脱、地球へ向かう軌道へと乗った。

探査機はこのあと、ときおり軌道修正をしつつ太陽を約2周したのち、2023年9月24日に地球に約1万kmまで接近。そして、ベンヌのサンプルが入ったカプセルを分離する。カプセルは大気圏に再突入し、ユタ州にあるユタ試験訓練場に着陸。その後、中のサンプルの分析が行われる予定となっている。

このサンプルについては、NASAと宇宙航空研究開発機構(JAXA)との間で結ばれた協定に基づき、JAXAがその一部をもらい、その代わりにNASAは、昨年末に「はやぶさ2」が持って帰ってきた小惑星リュウグウのサンプルの一部をもらうことになっている。2つの小惑星のサンプルを比較することで、さらに多くのことがわかると期待されている。

オサイリス・レックスの探査機本体はその後、エンジンを噴射して地球を安全に通り過ぎるような軌道に乗り、金星の公転軌道の内側で太陽を周回する軌道に乗る。探査機の状態が正常かつ、燃料が残っていれば、別の小惑星の探査ミッションに挑むことが計画されており、目標の小惑星は今夏にも調査するとしている。

なお、仮に2023年のタイミングでカプセルの放出に失敗するなどのトラブルが発生した場合は、いったん地球から離れ、2025年に再挑戦するというバックアップ計画が用意されている。この場合、2010年に地球に帰還した小惑星探査機「はやぶさ」のように、探査機ごと大気圏に再突入することになる。

NASAのトーマス・ザブーケン(Thomas Zurbuchen)科学局長は「オサイリス・レックスの数々の成果は、リアルタイムで刻一刻と展開される探査において、大胆かつ革新的な方法を示しました。運用チームはその挑戦に答え、そしていよいよ、太陽系ができたころの欠片を地球に持ち帰り、何世代もの研究者がその秘密を解き明かすことができようとしています」と語る。

オサイリス・レックスの副プロジェクト・マネージャーを務める、NASAのマイク・モロー(Mike Moreau)氏は「私たちはこれまで、『探査機がベンヌに対してどこにいるのか?』ということを考えてきましたが、今日から『地球に対してどこにいるのか』ということに変わりました」と語る。

「チーム内はさまざまな感情が渦巻いています。これまで気の遠くなるような作業に立ち向かい、与えられた目標をすべて成し遂げることができたので、誰もが大きな達成感を持っていると思います。しかしその一方で、懐かしさや、小惑星でのミッションが終わってしまうことへの寂しさもあります」。

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    オサイリス・レックスの想像図 (C) NASA's Goddard Space Flight Center

参考文献

NASA’s OSIRIS-REx Spacecraft Heads for Earth with Asteroid Sample | NASA
THE MISSION - OSIRIS-REx Mission
Asteroid Operations - OSIRIS-REx Mission
WATCH: OSIRIS-REx will Begin Return to Earth - OSIRIS-REx Mission