最近、宇宙旅行の話題が増えてきた。宇宙旅行の話題を盛り上げているのは、「ZOZO」の創設者の前澤友作氏だろう。彼のSpace XのStarshipで月周回旅行へ行くといった話題や、2021年12月にソユーズで国際宇宙ステーション(ISS)へ行く、ISS滞在費用が1席で50億円、そんなニュースが出たばかりだ。
宇宙旅行は、何種類かに分類することができ、それぞれビジネスを手がける企業が異なる。今回、筆者の独断と偏見で、サブオービタル旅行、宇宙ホテル、月・火星旅行という分類を行った。
今日は、そんな宇宙旅行ビジネスの現状について、どんな企業が宇宙旅行ビジネスを進めているのか、どこまでビジネスは進んでいるのか、価格帯はどれくらいなのかについて紹介したいと思う。
おそらく宇宙旅行の中で最も身近になる⁉ サブオービタル旅行とは?
サブオービタル旅行とは、宇宙と定義されている高度100kmに数分間滞在し、無重力体験をした後、1~2時間かけて地球へと帰還する旅行のことだ。
サブオービタル旅行の特徴は、日帰りで宇宙へと行くことができる、無重力体験を気軽に体験できる、そんなことが挙げられるだろう。“気軽”と言っても今現在、旅行価格が高く富裕層向けではあるのが正直なところだろう。このサブオービタル旅行を手がけるのは、日本のPD Aerospace、Space Walker、アメリカのVirgin Galactic、Blue Origin。
サブオービタル旅行も大きく2つにカテゴライズすることができる。
1つ目は、PD Aerospace、Space Walker、Virgin Galacticのように、有翼形の宇宙旅行機で宇宙へと向かうもの。厳密にはVirgin Galacticは、WhiteNightTwoという飛行機から宇宙旅行機SpaceShipが空中発射するので、PD Aerospace、Space Walkerのような有翼型の宇宙旅行機そのものが離着陸するものとは異なる。
現在、Virgin Galacticでは宇宙旅行機「VSS Imagin」というSpaceShipの第3世代を公開し、2021年夏にテスト飛行を行う予定だ。一方、日本のベンチャーは、もう少し開発に時間を要するようだ。
一方、Blue Originでは、New Shepardというカプセルタイプの宇宙旅行機になる。
ロケット型の輸送機の先端に搭載されたNew Shepardに宇宙旅行者は搭乗し、宇宙である高度100kmではカプセルだけで無重力体験をして、地球へとパラシュートを活用しながら帰還するものだ。
2021年7月20日に、New Shepardで初となる宇宙旅行者を募集しており、オンラインオークションで1席のみとなっているようだ。
サブオービタル旅行には、訓練も少なからず必要なようだ。
PD Aerospaceによると訓練は、メディカルチェック、座学、実地(訓練)の3つ。一般の旅行者が宇宙旅行として宇宙へ行くための医学基準は、まだないが旅行者自身の身体に、どのような負荷が掛かるのかを疑似環境で体験・身体学習すること、そして、メディカルチェックで、自分の身体を知り、環境負荷および負荷環境下での身体変化を知ることが同プログラムの目的とある。
このようにサブオービタル旅行は、もう実現直近であることがご理解いただけるだろう。
気になるのは価格帯ではないだろうか。実際に様々な情報がネット上にはあるが、このサブオービタル旅行では、日本円で2,000~3,000万円が相場なようだ。正直なところ現在では、富裕層向けであるサービスであることに違いはない。
もう実現している宇宙ホテル旅行とは?
次に、宇宙ホテル旅行を紹介しよう。実は、宇宙ホテル旅行は、すでに実現している、と言ってもいいだろう。 宇宙ホテルは、地球低軌道を周回し、人が居住することができる施設と定義できる。
そのため、ISSなども広義では宇宙ホテルに該当する。現に、ISSに滞在したことがある民間人は、数名いる。
デニス・チトー氏は有名な一人だろう。世界で初めて自費でISSへと8日間ほど宇宙旅行をしている。
ISSは、政府、宇宙機関が国家予算で建設・運営しているものであり、“旅行”という表現が完全に正しいかと言われるとグレーだが、民間企業が建設する宇宙ホテルはまだ存在していない、宇宙ホテルへと輸送するビジネスは確立している、そう表現すると正しいかもしれない。
宇宙ホテルを手掛けようとしている企業は、アメリカのAxiom Space、Bigelow Aerospace、Orbital Assembly、Orion Spanが挙げられるだろう。
Orion Spanは、最近残念ながら経営破綻してしまっている。Axiom Spaceは、ISSの運用終了の予定が2024年、もしくは2028年~2030年と報道がある中、次の運用を民間移管として委託する、もしくはAxstationという代替のステーションの整備構想もある。
宇宙ホテルの各企業の詳しい事業計画は不明であり、建設費用は、莫大だろう。現時点では、民間企業で実現するには、正直なところ難しい気がするが、Orbital Assemblyは、Gateway Foundationとともに2027年に宇宙ホテルの開業を目指すという報道もある。
かなりスケジュールはタイトだが、予算面での勝算そして建設に必要な大型建造物建機、ドローンなど具体的なツールも示していて、2027年開業のフィージビリティ(実現可能性)は高いと発言している。
そして、宇宙ホテルに人を輸送するビジネスは、すでに確立していると言っても良い。
それは、ロシアの宇宙船ソユーズ然り、Space XのCrew Dragonも然りだ。先日もJAXA宇宙飛行士の野口氏、星出氏を輸送している。他にも、Sierra NevadaのDream Chaserも開発中だ。様々な報道があるが、おおよその価格帯は、30億円〜50億円のようだ。前澤氏が、あるテレビ番組での発言で、1席50億円程度という発言があったのも記憶に新しい。
月・火星旅行はいつ実現するのか?
人類にとって一番近い惑星は、月と火星である。
そのため、惑星旅行として注目されているのは、月旅行だ。月旅行は、月には着陸せずに月の周りを周回する月周回旅行と、月へ着陸して月面基地に居住する旅行の2種類が大きくある。
月周回旅行のビジネス構想を発表しているのは、Space XとSpace Adventureだろう。
Space Xは、Starshipという宇宙船の開発を進めている。2021年5月5日は、SN15で5回目となる高度飛行試験を終えている。また月周回旅行でも前澤氏の話題は有名だろう。前澤氏は、Space XのStarshipに搭乗する予定で、Space AdventureとSpaceXは、連携して月周回旅行を実施するようだ。
民間企業が主導する月・火星旅行の実現は、正直なところまだ先の話だろう。しかしながら、今アメリカが主導となり進めている月有人輸送計画であるGateway計画やアルテミス計画において、月の着陸船(ランダー)としてSpace XのStarshipが選ばれている。その後、Blue OriginやDyneticsからの抗議により一時契約停止になったなどの様々な報道はあるが、このように官民が連携して進めているフェーズだろう。
月旅行として、月面に滞在する計画もある。例えば、Bigelow Aerospaceは「First Base」という月面基地の構想も進めている。4名から6名程度が120日間滞在することができる居住施設で、大容量の収納スペースやトイレなどが完備されているという。
他にも日本でもOutsenseというベンチャー企業が月面居住施設の実現に向けて建築技術の面で尽力している。
また、Space Xは火星旅行についても、現在計画を進めている。これは、月旅行などの開発と合わせてStarshipの開発を行なっている印象だ。 正直なところ、月・火星旅行の価格は不明だ。そして実現の時期についても未定だ。
いかがだっただろうか。確か、日本人の海外旅行の自由化が1964年4月1日。1人年1回、海外持ち出し500ドルまでの制限付きで海外への観光旅行が可能となった。
当時のJTBが出したハワイ9日間「第1回ハワイダイヤモンドコース旅行団」の旅行代金が、当時の価格で36万4000円。また、1965年4月10日に出発した「ジャルパック/ヨーロッパ16日間コース」は67万5000円。当時の国家国務員大卒初任給が1万9100円とすれば、年収23万円程度。
もちろん、管理職の方などはもっと年収は高いだろうし、富裕層はさらに高いだろう。金額感としては、おおよそ、年収に相当する金額となっていたようだ。しかし今では、海外旅行へは、時期や航空会社、ホテルなどをうまく選択、工夫すれば、いくらでも安く行けるし、ハワイでさえ10万円を切る金額でも可能のようだ(新型コロナで渡航が難しいという問題は別として考える)。
では、宇宙旅行に置き換えてみよう。今、サブオービタル旅行は2,000〜3,000万円。日本の平均所得がおおよそ400万円と言われ、5.5~7.5倍程度の開きはあるものの、良い金融商品でも出れば、不可能ではないところまで来ているかもしれない。
ただ、悲観しなくても良い気がしている。それほど遠くない将来、この宇宙旅行の価格は、下がっていくことが考えられるだろう。理由の1つにロケットの輸送コストも回収・再利用技術、製造技術が進展し、Old Spaceの時代と比較すると1/2から1/20へと下がっているという報道があるためだ。
今後、さらなる技術革新によりコストが下がるのではないだろうか。そうすれば、宇宙旅行は、サブオービタル旅行以外でも、いつの日か身近な旅行としての選択肢に入ってくるのではないか、と信じている。