小惑星探査機「はやぶさ2」の初期分析チームは、はやぶさ2が小惑星「リュウグウ」より持ち帰ったサンプル(試料)に対する初期分析を予定通り2021年6月より開始することを明らかにした。

2020年12月にはやぶさ2が地球に持ち帰ったリュウグウ由来の試料は現在、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の宇宙科学研究所キュレーション施設で初期記載が進められており、初期分析はその次の作業となる。

実施期間は1年間を予定しており、日本を中心とした14 カ国、109の大学と研究機関、269名が参加する国際チームで進められていく。具体的には、以下の6つのサブチームに分かれ、全体の統括を東京大学大学院 理学系研究科附属 宇宙惑星科学機構の橘省吾 教授(JAXA 宇宙科学研究所 太陽系科学研究系 特任教授)が担当する。

1. 化学分析チーム

チームリーダーは北海道大学の圦本尚義 教授が担当。研究内容としては、はやぶさ2が持ち帰った小惑星リュウグウ試料の化学的特徴を明らかにすることを目指し、平均的な化学組成と元素の同位体組成の分析を行うほか、試料構成要素の同位体組成変動と形成年代を求めるとしており、これらの結果から、リュウグウと地球に降り注ぐ隕石の種類との関係を明らかにし、リュウグウの起源と成因を探ることを目指すとしている。

2. 石の物質分析チーム

チームリーダーは東北大学の中村智樹 教授が担当。研究内容としては、およそ1mm以上の粗粒な粒子に対するの物質分析を実施するとしている。特に水を含む鉱物である「含水鉱物」に着目して、粒子の光の反射スペクトルを取得し、小惑星リュウグウ表面の物質分布を推定するほか、放射光高エネルギービームを使った非破壊の物質分析による回収試料の3次元的な内部構造や元素分布の調査なども行うとしている。

また、高分解能電子顕微鏡を用いた微細組織観察や、熱伝導率などの物性測定も行い、それらすべてのデータを統合することで、リュウグウの形成過程のモデル化を目指すとしている。

3. 砂の物質分析チーム

チームリーダーは京都大学/九州大学の野口高明 教授が担当。研究内容としては、小惑星リュウグウ表面は大気がないため、じかに太陽風(プラズマ)の影響を受け続けているほか、微小な隕石の衝突などもあり、試料の表面を調べることで、そうした影響により、どのように物質の表面が変化しているのかを調べるとしている。

4. 揮発性成分分析チーム

チームリーダーは九州大学の岡崎隆司 准教授が担当。研究内容としては、はやぶさ2のサンプルコンテナに封入された揮発性物質と小惑星リュウグウ固体試料中の揮発性物質の元素組成と同位体組成の分析を行うとしている。具体的には、水素、窒素、酸素、希ガスなど、さまざまな揮発性物質を分析することで、リュウグウの材料物質の起源や地質学的年代情報を得ることを目指すとしている。

リュウグウ固体試料は大気非暴露での分析を国内外の研究所で行い、リュウグウの「生」の情報を得ることを目指すとしているほか、京都大学 複合原子力科学研究所において中性子照射を行うことでイリジウムなどの微量元素分析とAr-Ar年代など、さまざまな物質科学情報を同時に取得する計画としている。

5. 固体有機物分析チーム

チームリーダーは広島大学の薮田ひかる 教授が担当。研究内容としては、初期太陽系における有機物の起源と進化の解明に向け、さまざまな顕微分光法、電子顕微鏡、同位体顕微鏡を複合してリュウグウ試料中の固体有機物の分子・同位体組成と形態およびそれらの分布を明らかにすることを目指すとしている。

具体的には、未加工の試料における固体有機物の化学組成の不均一性を解明することで、有機物形成の多様性の理解を目指すとしているほか、酸処理により分離・精製される不溶性有機物の分析から、固体有機物の平均組成を明らかにし、リュウグウがどのような天体であるかの特徴づけも行うとしている。

6. 可溶性有機物分析チーム

チームリーダーは九州大学の奈良岡浩 教授が担当。研究内容としては、日本・アメリカ・ドイツ・フランスの国際共同研究チームにて、リュウグウにどのような可溶性有機化合物が含まれているかを明らかにすることを目指すとしている。

具体的には、試料を種々の溶媒を用いて抽出し、アミノ酸や含窒素環状化合物を中心に、検出可能な分子の網羅的な解析を目指すという。また、可溶性有機化合物の空間分布や炭素・窒素・イオウなどの存在量・同位体比分析も行うとしている。

  • はやぶさ2

    サンプルキャッチャのA室開封後の様子 (C)JAXA