アマゾン ウェブ サービス(AWS)ジャパンは5月11日、年次カンファレンス「AWS Summit Online」をスタートした。初日には、代表取締役社長の長崎忠雄氏による基調講演が行われた。以下、その模様をお届けしよう。

  • アマゾン ウェブ サービス ジャパン代表取締役社長 長崎忠雄氏

AWSの強みはインフラ設計の思想の独自性

長崎氏は、同社のクラウドサービスの強みとして、インフラ基盤を紹介した。同社のクラウドインフラは「リージョン」や「アベイラビリティゾーン」によって構築されている。

長崎氏は「リージョンは物理的な場所で、データセンターが集積しており、その中に複数のアベイラビリティゾーンがある。アベイラビリティゾーンは物理的に離れている。1つのリージョンでも、アベイラビリティゾーンを分ければ、冗長性と可用性を確保できる。他社は1つのデータセンターをリージョンと呼んでおり、われわれとはインフラの設計の思想が違う」と述べた。

長崎氏は今年3月に大阪リージョンが開設されたことに触れ、「日本には東京と大阪の2つのリージョンがあるが、複数のリージョンを持つ国は少ない。日本の企業には、閉じたリージョンを活用して、クラウド化を進めてほしい」と、日本のAWSのインフラの優位性を訴えた。

加えて、「AWS Wavelength」の国内提供の紹介も行われた。「AWS Wavelength」は、通信キャリアの5Gネットワーク内でAWSのクラウドサービスにアクセスできるサービスで、国内ではKDDIが提供を開始している。同サービスは、KDDIの5Gネットワーク内にAWSのコンピューティングサービスとストレージサービスを配置してデータ処理することで、5Gの特性である超低遅延を実現する。

長崎氏は「AWS Wavelengthは設定を有効にすることで、すぐに使える。AWS Wavelengthによって5Gの低遅延を享受できることで、企業は今までにないアプリケーションを開発できるようになる」と話し、既に水面下でAWS Wavelengthに関する取り組みが進んでいることを明かした。

DeNA南場氏が経営者の立場から語る「クラウド移行」

昨今、テクノロジーを活用してイノベーションを起こすという機運が富に高まっているが、長崎氏は「われわれがイノベーションに取り組む中で重視しているのは、お客さまに着目し、お客様から遡っていくこと。トライ&エラーを繰り返しながら成功の種を見つけていくことが大切」と語った。そして、AWSが提言している「発明を続けるためのリーダーシップ8カ条」を紹介した。この8カ条にも「お客様の真の課題を解決するという観点」と、お客様の目線に立つことが盛り込まれている。

  • AWSが提言している「発明を続けるためのリーダーシップ8カ条」

そして、長崎氏は「これからは経営におけるクラウド活用の重要性が増す」と述べ、DeNA代表取締役会長の南場智子氏を壇上に招き、南場氏が経営者の立場から、同社のクラウド活用について講演を行った。

  • DeNA 代表取締役会長 南場智子氏

DeNAは大小あわせて300のサービスを提供しており、それらを約3000台のサーバで支えていたが、3年かけてそれらのAWSのクラウド環境への移行をすべて完了したという。ちなみに、データ量はペタバイトクラスに及び、毎秒数十万、1日50億のリクエストを処理していたそうだ。

南場氏はクラウドへの移行を検討する際、「コストの面では、オンプレのほうがクラウドよりも優位だった。しかし、当社のエンジニアの高い技術力によって、クラウドを使い倒せば、同等になるのではないかと考えた。当初、インフラ担当のエンジニアは物理的かつ煩雑な仕事に手を取られていたので、創造的な仕事にフォーカスしてほしいと思っていた。クラウドによって、エンジニアが創造的な仕事ができるようになると考えたら、気持ちがクラウド移行に傾いた」と語った。

しかし、「オンプレとクラウドのコストが本当に同等になるかは証明されていなかった」と南場氏。そこで、既にクラウド上で動いているサービスに対し、「Spot Instanceの活用」「Auto Scaling+独自のScaling技術」「Shardingの調整」という3つの手を打つことで、AWSのサービスのコストを50%下げたそうだ。南場氏は、いずれもDeNAのエンジニアがきめ細かな調整を行ったから実現できたとして、エンジニアの技術力の高さを強調していた。

さらに、南場氏は、当初見積もった3年という移行期間も「長すぎると感じた」と述べた。DeNAは競争力の源泉としてダイナミックな人材活用を行っているのだが、仮に3年間同じプロジェクトに人材がはりついていなければならなくなったら、この施策が阻害されてしまうことになる。

そこで、1年以上かけてプロジェクトにおいて標準化を徹底的に行ったという。「段取りを決めておくことで、手を動かし始めてから迷わないようにした」と南場氏はいう。これにより、エンジニアが1つの仕事に張り付く期間を3カ月に抑えることが可能になったそうだ。

クラウドは経営層にもメリットをもたらした

南場氏はクラウド移行の果実として、「エンジニアが経営に資する仕事ができるようになったこと」と語った。インフラエンジニアはトラブルが発生してデータセンターにかけつけることはなくなったし、開発エンジニアもインフラエンジニアとの折衝を行わずにアプリケーションを開発できるようになった。

また、同社のインフラは高い技術力を持ったエンジニアによって作りこまれていたので、入社したエンジニアが使いこなすまで半年はかかっていたが、クラウドであれば初日から使い出せる。

さらに、南場氏は「クラウドに関する高度な技術力とノウハウを得たことで、DeNAのエンジニアの市場価値が向上した」と話した。ただし、その結果、新たな課題が発生したという。というのも、同社のエンジニアが頻繁にヘッドハンティングに狙われるようになったというのだ。

こうした状況を踏まえ、南場氏は「優秀なエンジニアが『ここに居たいから居る』と思えるようにすることを考えた」と話し、その具体的な施策として、エンジニアがチャレンジングな開発が行える環境と良い組織風土を整備しているという。

南場氏は、クラウド移行のプロジェクトについて、「Qualityは100点、Deliveryは120点、コストは80点」という評価をしてみせた。コストが100点に達していないのは、一部のレガシーなシステムがまだクラウドに移行していないからとのこと。

「クラウドによって、マネジメントも本質的な価値にフォーカスできるようになった。クラウドへの移行は1点の曇りもない大正解だった」とも、南場氏は語っていた。