九州大学(九大)、京都大学(京大)、東京大学、科学技術振興機構、日本医療研究開発機構の5者は3月23日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する抗ウイルス薬剤治療がほかのコロナウイルス感染症と比較して困難である理由の1つとして、発症後2日後という早い段階で細胞から上気道へと排出されるウイルスの量がピークに達するためであることを明らかにしたと発表した。
それと同時に、コンピューターシミュレーションによる網羅的な分析から、たとえ使用するウイルス複製阻害薬剤やウイルス侵入阻害薬剤が強力であったとしても、ピーク後に治療を開始した場合、ウイルス排出量を減少させる効果は極めて限定的であることを見出したことも発表された。
同成果は、九大大学院 理学研究院 生物科学部門の岩見真吾准教授(京大 高等研究院 ヒト生物学高等研究所 連携研究者兼任)、同・Kwang Su Kim特任助教、インディアナ大学の江島啓介助教、九大大学院 理学研究院 生物科学部門の岩波翔也特任助教、同・藤田泰久大学院生、東京理科大学 理工学部 応用生物科学科の大橋啓史研究員、国立国際医療研究センター(NCGM)エイズ治療・研究開発センターの小泉吉輝医師、NCGM AMR 臨床リファレンスセンターの浅井雄介研究員、北海道大学大学院 先端生命科学研究院の中岡慎治准教授、国立感染症研究所 ウイルス第二部の渡士幸一主任研究官、東京大学 国際高等研究所ニューロインテリジェンス国際研究機構 副機構長の合原一幸特別教授、英・ウォーリック大学のRobin N. Thompson助教授、米・ロスアラモス国立研究所のRuian Keスタッフサイエンティスト、同・Alan S. Perelsonシニア・フェローらの国際共同研究チームによるもの。詳細は、国際学術雑誌「PLOS Biology」に掲載された。
ウイルス複製阻害薬剤は、いつ投与しても同じ効果を得られるというわけではない。一般的に細胞から上気道(鼻・咽頭・喉頭)へ排出されるウイルス量がピークを迎える前に投与を開始することが、体内のウイルス排出量を減少させるために重要だ。
国際共同研究チームは今回、COVID-19に加えて、過去に流行したコロナウイルス系の「中東呼吸器症候群(MERS)」および「重症急性呼吸器症候群(SARS)」の臨床試験データの収集・分析を実施。
症例間の不均一性が考慮された上で、生体内でのウイルス感染動態を記述する数理モデルを用いた解析が行われた。その結果、COVID-19ではMERSやSARSと比較して、発症後2日程度の早期にウイルス排出量がピークに達することが明らかとなった。
さらに、今回開発されたコンピューターシミュレーションによる網羅的な分析から、さらに懸念すべき事項が明らかにされた。それは、たとえ使用するウイルス複製阻害薬剤やウイルス侵入阻害薬剤が強力であったとしても、ピーク後に治療を開始した場合、ウイルス排出量を減少させる効果は極めて限定的であることが見出されたという点だ。
今回明らかにされたCOVID-19の生体内の感染動態は、治療戦略を開発する上で極めて重要な定量的知見だという。そのため研究チームでは現在、今回の研究に基づいてデザインされた医師主導治験が国内で進められているとしている。