2020年の夏以降、Samsung Electronicsの5nm EUVプロセスの製造歩留まりが低迷しているという話題がうわさレベルではあるものの韓国外のメディアを中心にたびたび報じられてきた。

一方、韓国内のメディアはこの件に触れるようなことはせず、むしろSamsungが米国の有力顧客から5nm EUVプロセスでの受託を次々と獲得しているといった報道をしてきた。

しかし、ここにきて韓国の経済メディアである毎日経済新聞(日本の毎日新聞とは無関係)が提携関係にある韓国の金融投資メディアINFOSTOCK DAILYのSamsung関係者への取材情報に基づき、「Samsungのファウンドリ事業部(いわゆるSamsung Foundry)で生産されている5nmプロセスの歩留まりが量産を開始する目標値に未だに達していないことを確認した」と報じた。

同紙によると、Samsungの内部事情に詳しい人物が「5nm EUVプロセスの歩留まりは50%に達しておらず、生産歩留まりをあげるため全力で取り組んではいるが、大きな進展がない状況である」と述べたという。

また同紙では「Samsungの研究部門が別の生産方式を開発し、歩留まり向上のめどが立ってはいるが、このプランBを採用する製造現場の決定が遅れている」とも伝えている。同紙によると、一般的にDRAMは90%以上の歩留まりを目標とするが、システムLSIは70%台を目標歩留まりとしているという。

このため、Samsungのファウンドリ事業部は、過去最高の受注量を確保しながらも歩留まりの低迷で生産すればするほど不良品が産出され、利益を減らす傾向にあるという。なお、Samsungは「歩留まり問題は起きていない」とコメントしているという。

SamsungがTSMCに先んじて4nmプロセスを導入、Qualcomm製品を製造か?

こうした報道とは別に複数の韓国メディアが、Qualcommが最近公開した次世代モデム「Snapdragon X65」とその下位モデル「X62」の生産をSamsung Foundryに委託した模様であると伝えている。

Snapdragon X65は、5nm EUVの改良版ともいえる4nm EUVプロセスで製造される予定であるという。Samsungの4nmプロセスは、2021年下半期からの生産開始が予定されているという。 

Samsungの競合で、先行するTSMCは5nmの次のプロセスとして3nmを2022年に量産提供する計画であり、Samsungとしては、TSMCの3nmの前に4nmを提供することで、技術力をアピールする狙いがあるようだと韓国の半導体業界関係者は見ている。ちなみにTSMCは、Samsungに対抗して4nmプロセスも用意するが、2020年発売の次世代iPhone向けに3nmの立ち上げを優先させるようである。

EUVでトラブルを抱えるIntelとSamsung

IntelのBob Swan CEO(発表当時)は2020年7月、10nmプロセスに次いで7nmプロセス(トランジスタ密度は、Samsungの5nmに相当)の歩留まりが低迷し、量産に移行できず、外部に製造を委託する可能性があると発表していた。結局、その最終判断は2021年2月15日付で新たにCEOに就任したPat Gelsinger氏にゆだねることとしている。これに対して、Samsungは、社員にかん口令を敷いており、すべてがやぶの中であり、対外的にも「5nmプロセスに関して何も問題は起きていない」としている。

ちなみにSamsungは7nmプロセスにも最初からEUVを適用していたが(TSMCは7nmの初期段階をArF液浸を採用)、2019年末に東京で開催されたSEMICON Japan 2019にてSamsungは、併催されたSEMI Technology Symposium(STS)において、「Samsungの7nmプロセスが歩留まり低迷のトラブルを抱えているといううわさが広まっているが、そのような事実はない」と述べていたが、今回の報道を踏まえると同社のEUVプロセスがたびたび歩留まり低迷に悩まされてきたことがうかがえる。

なお、2020年に同社のトップ(副会長)であるイ・ジェヨン(李在鎔)氏がASMLを電撃訪問、その後、ASMLのトップが訪韓するといった動きがあった。一般的には、SamsungがEUV露光装置の購入台数を確保するのが目的とされてはいるが、EUV露光プロセスの何らかのトラブル解決の協議も重要な目的の1つだった可能性があるとの見方を韓国の半導体業界関係者は示している。