日本政府は2019年7月、半導体やディスプレイに使用される必須素材3品目の韓国への輸出に関する規制強化を実施。それを受け韓国政府は「素材・部品・装備(韓国では素部装と略記)競争力強化戦略」を策定し、サプライチェーンの安定化とグローバルバリューチェーン(GVC)再編に取り組んできた。今回、その1年半の節目にこれまでの取り組みに関する進捗状況の中間報告を韓国産業通商資源部(日本の経済産業省に相当する中央官庁)が発表した。

韓国政府は、政策の司令塔として2019年10月に「素部装競争力委員会」を発足させ、政策樹立と協力モデルの承認、進捗の点検などを行ってきたほか、2001年に制定された「部品素材特別法」を20年ぶりに全面改正し、2020年4月1日に施行している。

注目の素材3品目、進む韓国内での生産

同レポートでは規制された主要3品目について、韓国政府が迅速な技術開発支援と企業の代替素材投入などで国内生産を急速に拡充したため、需給が安定的に維持できていると結論付けている。

具体的には、まず、高純度フッ酸液についてだが、韓SoulBrainが12N(99.9999999999%)級の生産設備を2倍に拡充し、増産を開始。高純度フッ化水素(ガス)については韓SK Materialsが5N(99.999%)クラスの高純度製品の量産に成功したとしている。ともに世界最高クラスの品質だという。また、そのほかにも数社が増産しているという。

EUVレジストについては欧州(輸入元はベルギーにあるJSRとベルギーimecの合弁企業)からの輸入を増やすとともに、DuPontと東京応化工業(TOK)のEUVレジスト量産工場の誘致に成功。韓国内企業については、パイロット設備を構築し、ArFフォトレジストを試作中だとしている。

フッ化ポリイミドは、韓Colon Industryが量産設備を構築し、中国のスマートフォン向けに輸出を行うレベルに至っているとするほか、韓SKグループの化学メーカーSKCが独自技術を活用したものの生産投入テストを進行中だとしている。このほか、いくつかの韓国のユーザー企業は、携帯電話の製造にフッ化ポリイミドの代替素材を採用したとしている。

輸入先を日本以外に拡大へ

韓国政府はこの1年半、日本への依存度が高い品目を100種選出し、その依存度を減らす取り組みとして、輸入先を日本だけではなく、欧州連合(EU)や米国などに多様化し、品目別平均在庫レベルを従来比2倍以上に拡充した。

この流れの中、韓国の石油化学メーカーである暁星(ヒョソン)は2020年上半期に炭素繊維の生産設備を増設したほか、SKグループの化学メーカーSKCも2019年下半期にブランクマスク工場を新設するなど、23社の企業が国内に新たに生産設備を構築したという。

このほか、SKグループのウェハメーカーであるSK Siltronは、DuPontのシリコンウェハ製造部門を買収したほか、建材メーカーのKCCは、シリコンおよび石英素材企業の米MPMを買収するなどといった動きも見せている。

加えて、同レポート発表直後の1月末、韓国の化学メーカーであるPOSCO ChemicalとOCIが共同で半導体製造用高純度過酸化水素の製造に向けた工場建設を始めたことを明らかにしている。

一方、世界から輸入している338品目については、関係省庁と関係機関、業種別協会など合計21機関による受給対応サポートセンターを構築、7000社以上の企業の需給動向を常時監視する体制を構築したとしている。

100品目の技術開発を促進

韓国政府は2019年〜2020年にかけて約2兆ウォン(約1900億円)を投入し、100品目の技術開発推進を図っており、現在までに85品目の技術開発が進行中だとする。また、残りの項目についても、2021年から研究開発のサポートを順次進めているとしており、ArFフォトレジストをはじめとした開発中の製品が量産に入る予定だという。

さらに企業と研究所などが参加する協力モデル22件に対し、支援体制の構築と資金投入が行われているとする。特に2次電池部品、半導体用材料などについては、2024年までに2137億ウォン(約200億円)規模の政策資金が投じられる予定のほか、これまで企業の負担が大きかった、人材や環境分野などの規制についても、特例を設けてサポートしていく方針だという。

加えて、32の公共研究機関と12大学が技術支援を行った結果、153件の技術的な支障が解決したとしている。

このほか、韓国では素材・部品・装置企業への集中投資に向け、8626億ウォン(約805億円)規模のファンドを組成し、4件のプロジェクトに合計3564億ウォン(約333億円)を投資したという。また、次世代技術の研究開発に2兆2000億ウォンを投資し、新素材の開発にかかるコストと時間を削減するためのデータを活用したプラットフォーム構築を図るともしている。

日本政府の半導体およびディスプレイ素材3品目を対象とした輸出管理の規制強化は、韓国の素材国産化を促進させたのみならず、部品や製造装置の国産化(外資工場の誘致を含む)も促進させている。また、日本はじめ外国企業の韓国への工場進出も相次いでおり、それができない企業(特に、国産化が急速に進んだフッ化水素分野の日本企業)は韓国向けビジネスで痛手を受け、業績悪化を招くなどの事態がすでに発生している。