宇宙飛行士の訓練方法を非認知スキル向上に活用
世界は今、ドラスティックに変化している。私達日本人はその変化に対応できるのか。
計算や暗記などIQで測れる能力は高いと言われる一方、急激で予測不能な変化に対応する力や新たな価値を想像する力といったIQで測れない力、専門的には「非認知スキル」と呼ばれる能力が、日本人は低いとも言われるようだ。
こうした状況に対し、文部科学省(文科省)は2021年度から中学校で、2022年度から高校で新しい学習指導要領をスタートさせる。その内容は知識や技能に加え、「未知の状況にも対応できる『思考力・判断力・表現力』」や「学びに向かう力・人間性」をバランスよく育んでいくとするものだ。しかし、非認知スキルはどうやって高めるのだろうか?
そんな問いに対する1つの解が、12月18日に発表された。Space BD×Z会グループ×JAXAによる「宇宙飛行士の訓練方法を活用した新教育プログラム DiscoveRe Method(ディスカバリー メソッド)」だ。宇宙飛行士の訓練方法を、どのように非認知スキルを高めるような教育に活用するのか。実際の教育現場の反応は?
プログラムを立ち上げたSpace BDの永崎将利社長、Z会ソリューションズ事業開発室の瀬戸裕一郎室長、DiscoveRe Methodを実践中の早稲田実業学校 玉井邦彦教諭に話を伺った。
学生時代は成績優秀だったのに、社会で活躍できないのはなぜか?
DiscoveRe Methodは、Space BD永崎社長が総合商社の人事部で働いていたころの、ある問いが原点だという。その問いとは「人の優秀さとは何なのか?」。
「私は教育学部出身で、商社入社後は人事部に配属されました。新卒採用ではどうしても筆記試験で合否を判定し、非認知スキル的なものを評価することが難しい。採用を担当した3期約400名の中にはその後、会社組織になじめずに苦しむ姿や悲しい出来事をたくさん見てきました。学生時代にすごく優秀と言われてきた人間が、なぜ社会でうまく物事を進められないのか。仕事を進めるには、コミュニケーション力や折れない心など、学力だけではない力が求められます。この乖離を何とかしないと、苦しい人たちをたくさん生み出してしまう。これが私が教育事業を立ち上げた原点です」(永崎氏)
商社を退職し独立した永崎氏は、中学生を対象に日本のビジネスリーダーを育成してほしいという依頼に必死に取り組む。だがリーダーとしての「非認知スキル」の定義がないと話にならない。「正当性のある物差し」を模索する中で1つの解となったのが、宇宙飛行士である。
「子供たちみんなが将来宇宙飛行士になるわけではありません。でも多国籍チームの中で仕事を行い、宇宙空間という未知の世界に挑む宇宙飛行士に求められる資質や能力は、今後の社会で求められる能力の1つのロールモデルになる。そこでJAXAの協力を仰ぎ、実際に宇宙飛行士の訓練を担当するプロフェッショナルと一緒に、教育のためのコンテンツを作っていったのです」(永崎氏)。
JAXA新事業促進部J-SPARCプロデューサー・高田真一氏は「日本の有人宇宙開発は約20年の蓄積があります。(技術面やハード面だけでなく)宇宙のノウハウを世の中に還元、貢献していきたい」と共創事業の意義を語る。
では具体的にどんなコンテンツになっているのか、見ていこう。