花王パーソナルヘルスケア研究所と花王マテリアルサイエンス研究所は、肌上に低粘度のシリコーンオイルを塗布することで、蚊が肌にとどまらず、吸血を阻害できることを明らかにしたと発表した。
従来の忌避剤(虫よけ)とは異なり、蚊の脚がもつ構造に着目し、肌表面を蚊の嫌う物性に変化させることによって蚊をとまらせなくする新しい着眼点の蚊よけ技術であるとしている。
蚊は、肌に降り立つと脚先を使って態勢を安定化した後に吸血行動を始めるため、肌に降り立ってもすぐに離脱させれば吸血されることがないということから、蚊が嫌う表面について研究を行ったという。
研究では、さまざまな表面に対して、蚊が降り立つ挙動をハイスピードカメラにて観察した結果、水との親和性が低い特定のオイルを塗布した表面からは即座に飛び去り、その後、脚を擦り合わせるようにして付着したオイルをぬぐう行為をしていることが判明したという。
この現象から、蚊の脚と液体が接触したときの状態を観察したところ、蚊の脚が持つ非常に高い撥水性から、液体が水やグリセリンの場合には液はしずくのままで蚊の脚に濡れ広がることはないが、スキンケア商品にも配合されているスクワランや低粘度のシリコーンオイルに接触すると、液滴が蚊の脚に短時間で濡れ広がることがわかったという。
こういった濡れ現象が起こると、蚊の脚には短時間で液体に引き込まれる方向への力がはたらくため、表面張力計を用いて蚊の脚に液体を接触させたときに生じる力の測定を行った結果、低粘度のシリコーンオイルが濡れ広がるとき、蚊の脚には約5μNの毛管力が発生していることが判明した。蚊のような小さくて軽い昆虫にとってはこの程度の引力でも脅威となり、逃避行動を誘発すると考えられるとしている。
また、蚊の脚に対する濡れ性が異なる液体をガラス基板に塗布し、蚊をとまらせる実験を行ない、蚊の脚が接触してから、飛び去るまでの時間をそれぞれで測定したところ、蚊は、低粘度のシリコーンオイルを塗布した基板には3秒よりも長くとどまらないことが明らかとなった。加えて、ヒトの肌を用いた試験では、何も塗っていない場合、とまったメス蚊のうち平均85%が吸血行動を示したのに対し、低粘度のシリコーンオイルを塗布した肌では、平均4%の蚊しか吸血行動を示さなかったとしている。
このような濡れ現象を利用して蚊よけを行なっている例が自然界に存在するのではないかとの検討から、カバが肌上に分泌する“赤い汗”には、紫外線防御(日やけ止め)効果 や保湿の効果に加え、蚊から身を守るはたらきもあるのではないかと推測し、和歌山県のアドベンチャーワールドからカバの分泌液を入手し、分泌液の物性に近いシリコーンオイルを比較例として、それぞれを塗布した基板に蚊をとまらせる実験を行った結果、どちらの液体も蚊の降着抑制効果を持つことが明らかになったという。
なお、今回の研究成果は、Nature Researchの電子ジャーナル「Scientific Reports」に掲載されている。
同社がこのような研究を行った背景には、蚊を媒介とする感染症の拡大があるとしており、今後は蚊から肌を守るアイテムの開発につなげ、蚊を媒介とする感染症から人々を守ることに貢献していきたいとした。