国立極地研究所(極地研)は11月10日、2012年11月から2014年1月まで実施された第54次南極地域観測隊が、ベルギー南極観測隊との合同ナンセン氷原隕石探査(2012年12月1日~2013年2月14日)で採取した3点のCMコンドライト隕石「Asuka 12085」、「Asuka 12169」、「Asuka 12236」が、これまでには地球上で発見されたことのない最も原始的な隕石であることが判明したと発表した。

同成果は、極地研 極域科学資源センターの木村眞特任教授、同・地圏研究グループの今栄直也助教、同・山口亮准教授、総合研究大学院大学 教育開発センターの小松睦美助教、九州大学 基幹教育院の野口高明教授、仏・ブルターニュ・オキシダンタル大学のJean-Alix Barrat氏、英・オープン大学のRichard C. Greenwood氏らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、「Polar Science」に掲載された。

日本の南極地域観測隊による隕石採取は歴史がある。今から約50年前、第10次観測隊が1969年に、やまと山脈南東の氷床の調査で偶然9個の隕石を発見したのが始まりだ。しかも、9個の隕石は6種類のグループに分類されるという、後の南極での隕石探査に大きな影響を与えたという。

その後、第14次観測隊が1973年に、再びやまと山脈南東の氷床で別の目的の調査中に再び偶然ながら12個を発見。そして1974年の第15次観測隊から隕石探査が正式な目的として掲げられるようになり、やまと山脈調査旅行で663個の隕石が採取され、それ以降、日本の南極隕石探査が本格化する。

そして、今回の3個を発見した第54次観測隊の時点で通算24回の探査が行われ(毎回行われてきたわけではない)、約1万7000個が採取された(極地研の隕石所有数は世界最大級)。ちなみに第54次観測隊は、今回の3個を含めた合計420個の隕石を採取している。なお今回の隕石名にある「Asuka」とは、南極のセールロンダーネ山地付近にある「あすか基地」(現在は閉鎖中)に由来している。

隕石といってもその種類はさまざまで、いくつもの分類がある。そのうちの大きな分類のひとつである「炭素質コンドライト」は、太陽系で最古と考えられている物質だ。その炭素質コンドライトもいくつかに分類され、「CMコンドライト」は最も多く発見されているグループだ。国際隕石学会データベースに登録されている個数は648個で、そのうちの140個を極地研が所有している。

これらの隕石は、直径0.3mm前後の主にマグネシウムに富む珪酸塩鉱物から構成される球粒(コンドルール)が、全体の4割ほどを占めるのが特徴だ。残りの大部分は微細な物質の集合体(マトリックス)から構成されている。

従来知られていたCMコンドライトは、水による変質作用を受けており、その程度はCMコンドライト隕石ごとに多様であることが知られていた。そのため、CMコンドライトは水の含有量や変質鉱物の量などにより、サブタイプ2.7から2.0に区分されている。また、2次的な加熱により脱水作用を受けている試料が認められることも、CMコンドライトの特徴のひとつだ。

今回の「Asuka 12085」、「Asuka 12169」、「Asuka 12236」の3点に対する分析は、組織観察、X線回折、ラマン分光分析、元素組成分析、酸素同位体分析が実施された。その結果、これらの隕石はいずれもCMコンドライトに属するものの、その特徴であるはずの水による変質作用をほとんど受けていないことが判明した。このような始原的隕石(形成当時から変化を受けていない隕石)は従来報告されておらず、新発見となったのである。

また分析結果からそれぞれのサブタイプは、「Asuka 12085」が2.8に、「Asuka 12169」が3.0に、「Asuka 12236」が2.9に分類された。上述したようにCMコンドライトのサブタイプは2.7~2.0。今回の発見で、サブタイプ3.0~2.8がCMコンドライトの分類基準に新たに加わることとなった。このようにして、初めてCMコンドライトの変質作用以前の状態が明らかとなったのである。

これらの隕石に含まれるコンドルールやマトリックスは、原始太陽系星雲内での生成物であり、その形成に関わる条件や環境は、その後の変化を免れた試料からのみ明らかにすることが可能だ。そのため、これらの始原的隕石の発見は重要であり、太陽系誕生当時、どのような物質が存在し、どのようなプロセスを経たかを解き明かす最良の試料になると考えられるという。

すでに、国内外の多くの研究者がこれらのCMコンドライトに着目しており、研究が始められている。その結果、生命の起源とも関わりのある有機物(アミノ酸)や、プレソーラー粒子(太陽系形成以前の物質)が、従来知られていたどのCMコンドライトよりも多く含まれるという結果も得られているとした。

また、マトリックスが高解像度の電子顕微鏡により調べられ、ほかのCMグループの隕石と異なって変質鉱物がほとんど含まれないことも明らかになった。これらの結果は、今回発見されたCMコンドライトが太陽系始原物質のひとつであることを裏付けると同時に、太陽系初期の物質がどのようなものであったかに関する貴重な情報を提供するものとした。今後のさらなる研究により、太陽系初期の特徴がこれらの隕石から明らかになることも期待されるとしている。

また、小惑星探査機「はやぶさ2」が持ち帰る予定のリュウグウの試料も、このCMグループが有力候補のひとつとされている。そのため、回収試料から今回のCMコンドライトのような岩片が発見される可能性もあるという。今回の3点の隕石と「はやぶさ2」の試料を比較検討することにより、太陽系初期の物質や小惑星の形成環境に関する知見が得られることも期待されるとしている。そのため、今回の隕石は惑星探査の観点からも注目されているとした。

そして最後に、今回の発見は、近年の南極隕石探査により回収された試料であり、このような生命の起源や惑星の始原物質とも関わりのある貴重な隕石が発見されたことは、今後も隕石の探査を継続し未知の隕石種を発見する意義があることを示唆しているとしている。

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    表面に積雪のない裸氷上で発見された「Asuka 12236」。アルファベットと数字は発見地点のGPSデータ。発見された隕石は、このようにしてまず写真が撮影される。その後、発見者の姓名と日時を記録し、素手では直接触れずにチャック付きのポリエチレン袋に直接収納。その後、冷凍して日本まで持ち帰り、隕石の酸化を防ぐため、極地研内で還元雰囲気下で解凍される (出所:極地研Webサイト)