半導体市場動向調査会社である台湾TrendForceによると、台湾で2番目に大きなファウンドリであるUMCだが、米国司法省が企業秘密を盗んだとして提起した企業(Micron Technology)に対する訴訟の解決にめどが立ち、6000万ドルで和解し、訴訟は解決に向かう可能性が高いとしている。2020年10月末時点で、この和解策は裁判所の承認待ちの状態だが、この和解により、UMCは将来に向けたファウンドリビジネスにさらに注力できるようになるとTrendForceでは見ている。

今回の訴訟は、米国司法省が中国の新興DRAMメモリメーカーであるJHICC(福建省晋華集成電路)を知的財産の製造盗難の罪状で起訴したことに端を発したもの。2016年5月、UMCは商用DRAMの量産技術を持っていないにもかかわらず同年2月に設立されたばかりのJHICCと技術協力協定を締結した。その後、2018年11月、米国政府は、JHICCが特許侵害を犯した疑いがあると発表した後、生産工場の操業を停止するようにJHICCに輸出制限を課した。同時に、米国司法省は、MicronのDRAM製造技術を違法に取得しようとしたJHICCにUMCが手助けしたとして起訴した。

具体的には、UMCがMicronの台湾子会社から同社社員を通してDRAM製造技術を違法に入手し、JHICCに提供したとして、JHICCとともに米国司法省から提訴されていた。米国政府の対JHICC制裁より、中国の中央・地方政府が巨額を投じて進めてきたJHICCの生産立ち上げは、量産開始を目前にして暗礁に乗り上げたままである。米国政府の狙い通りにJHICCが生産できない状態に追い込め、一方では米国勢のためにUMCも、TSMC同様、中国のためではなく米国のために働いてもらわねば困るので、米国政府も訴訟の和解を了承したものとみられる。

コロナ特需でファウンドリビジネスは絶好調

ファウンドリビジネスは現在絶好調で、特にUMCが得意とする8インチウェハによる製造ラインはフル回転状態であることから、UMCは訴訟問題の早期解決を模索していたようだ。

ファウンドリ市場の最近の状況を見てみると、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な感染拡大と、それに伴う各国政府の国境封鎖などの対策により、サプライチェーンに混乱が生じることを危惧した電子部品サプライヤや電子機器メーカーは在庫の積み増しを行ったが、その一方で、在宅勤務や在宅学習などの社会変化に伴うPC、サーバ、ネットワークデバイス、テレビなどに対する需要が増加したほか、5Gに対する投資も加速しており、これらの要因からファウンドリ各社は2020年第1四半期から第3四半期まで90~100%の稼働率を維持している。最近では、米中貿易戦争に伴う米国の制裁強化を危惧したメーカーなどから需要が高まっており、ファウンドリ各社の生産能力は限界に近い状態が続いているという。

  • ファウンドリシェア

    2020年(左)および2021年(右)の世界ファウンドリ市場における各ファウンドリの市場シェアと国別内訳の予測 (出所:TrendForce)

フル稼働の8インチファブは供給不足で価格上昇の勢い

こうした市場環境に伴い、TSMC、UMC、Vangard、PSMC、Samsung、SMICなど多くのファウンドリの8インチウェハの生産能力は、PMIC(パワーマネジメントIC)やDDIC(ディスプレイドライバIC)の旺盛な需要により、長期にわたって供給不足状態にある。そのため、既存の8インチウェハ市場は、一部のファウンドリに価格上昇をもたらす状況となっている。

また、12インチウェハに関しても、TSMCとSamsungがけん引する微細プロセス市場がHPCとハイエンドスマートフォン向けチップセットを中心に高い需要が続いている。ファウンドリ業界シェア4位のUMCは、現在7つの8インチファブと4つの12インチファブを所有しており、総生産能力は月産34万枚(12インチウェハ換算)である。UMCは近年、GLOBALFOUNDRIES(GF)同様、14nm以下の微細プロセスの開発を放棄し、代わりにすべてのリソースを28nm以上のプロセスと8インチウェハ市場に投入している。UMCの28nmプロセスは成熟しており、生産能力の限界に近づいており、現在、小規模な生産能力拡張が検討されている。

2021年以降も8インチファブの生産能力不足が継続

2021年に新型コロナウイルスが終息し、世界経済が回復に向かうと仮定した場合についてTrendForceは、サーバ、スマートフォン、ノートパソコンなど、さまざまな最終製品の出荷数量が2020年を超えると予測している。これに伴い、さまざまな半導体の需要も高まることが予想される。ただし、実際問題として米中貿易紛争と新型コロナの先行きは依然として不確実な状況であり、これらのリスク要因によって、ファウンドリの顧客はコンポーネントの在庫レベルを高く維持する必要性に迫られることから、特に8インチウェハを中心としたファウンドリの生産能力が依然として不足することが懸念されるとしている。そのため、UMCをはじめとする8インチウェハを主体としたファウンドリメーカー各社は、短期的には8インチラインの新たなM&Aや生産能力の拡張で、その需要に対処することになるものとTrendForceでは予測している。