今日の医療用電子機器の市場は、全米では医療費全体の約2,000億ドルに占める割合は比較的小さく、2019年では約5.2%だった。しかし、医療行為にもたらす価値は非常に大きく、急速に成長している。その結果、医療用電子機器業界は、慢性疾患の発生率が上昇しているのに加え、医療画像、モニタリング、埋め込み型医療機器の使用が増え、さらに高齢者の増加により、大幅な成長が見込まれている。

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それ以上に、医療用電子機器のさまざまな技術がもたらす健康上の利点は、病院での想定をはるかに超えて広がっている。たとえば、サテライトセンター、独立したクリニック、救急医療センター、診療所、患者の自宅などに、バイタルサインをチェックして専門的なケアを提供するためのモニター、アナライザー、電子機器、そしてさまざまな機械が装備されつつある。総合的に見て、これらの機器は患者により良く、よりタイムリーなケアを提供するだけでなく、現在の医療提供者の超過勤務によって提供されている医療の、かなり大きな部分を置き換える可能性を秘めている。

この驚くべき速さで進む変化は、医療ネットワークインフラに影響を与える一連の複雑な技術的問題を引き起こしている。この複雑さは、さまざまなソースやデバイスのタイプ、それらの相互接続や、医療従事者向けの異機種ネットワークインフラに起因するものだ。特に、複数の病院や関連施設を所有する大規模な病院システムの場合、物理的ネットワークや仮想ネットワーク、システム、データセンターやアプリケーションを合わせてサポートしつつ、ネットワーク全体の可視化を維持することは大きな課題である。

現在の高性能な配信、解析ならびに管理ソフトウェアアプリケーションを配備したとしても、可視化には限りがあり、性能の低下もよく起こる。もちろん、問題の一部は急激に拡大するネットワークトラフィックの量にある。しかし、もう1つの問題は、多くのアプリケーションがカスタム設計されており、現在のモニタリング方法との互換性がないことである。

あるケースでは、買収や新しい組織が加わることで医療提供システムが拡張され、ネットワーク全体の可視化が欠如している複雑な異機種インフラを引き継いだため、システム管理者はデータセンターをサーバーおよびアプリケーション層までモニタリングすることができなかった。組織の仮想化、または独自のクラウドインフラに関連した問題を見過ごしていたことにより、IT部門は問題の特定、優先順位付け、解決に膨大な時間とリソースを費やす必要があった。

似たような事例として、テキサス州フォートワースのCook Children's Healthcareのシステムが挙げられる。ここでは、ユーザーエクスペリエンスの低下、ネットワークモニタリングの難しさ、潜在的な性能問題を事前に特定できないなどのさまざまな問題を抱えており、このシステムの潜在能力を最大限に引き出す方法を模索していた。しかし、前例と同様に性能の問題を診断して最終的に解決するためのソリューションは、テクノロジー、方針、そして事業が抱える問題を整理することから始まった。

Cook Children's Healthcareや、医療分野へ参入しているバイオセンサー、ウェアラブル、モバイルアプリケーションを検討している他の多くの組織が懸念する共通の悩みは、データがナースステーション、バックエンドサーバー、またはデバイス自体の内部にあるかどうかに関係なく、サイロ化した独自のシステム内で動作していたことである。相互運用可能なデータを持つことは医療の未来とコスト削減には重要である。

しかし、医療機器が有線接続から無線接続へ移行するに伴い、異なるプロトコルを使い、同一または隣接する無線周波数を共有する機器が複数存在する際に、奇妙な通信障害が起こるようになる。デバイスではインフラと相互運用性の問題が起こる可能性があり、命にかかわる事態の最中に通信エラーが発生する。しかし、IoTデバイスからの操作要求をカバーする単一のプロトコルは存在しないため、サイバーセキュリティとプライバシーのリスクならびに医療提供者が気づいていないか、もしくは多くの場合気にもかけていない脆弱性をもたらす可能性がある。

一方、業界全体ではFDA(アメリカ食品医薬品局)のような規制機関は、セキュリティを最大の懸念事項と考えている。スマート医療機器は、確実に動作する前にWi-Fi、Bluetooth、ZigBeeならびにLTEとのインタフェースが必要になる。このため、大手企業は、さまざまなシナリオで製品が堅牢かつ安全に動作するようにリソースを統合することで、時代の先端を走り続けることに取り組んでいる。さらに、厳しい医療規制に準拠しながら、追加された電磁波干渉に対処する必要がある。

これらのタスクは、新しい技術が台頭し、医療機器に取り入れられるにつれて、より簡単になり、そしてある局面ではより複雑になる。中でも最も重要なのは、非常に低いレイテンシーで、膨大な量のデータを処理できる5G無線ネットワークである。少なくとも理論的には、遠隔電子モニタリングやその他のIoMTデバイスは急増し続けているため、5Gは理想的である。検討されている5Gの医療アプリケーションには、リモートでの診断、大容量ファイルの転送、センサー開発がある。それ以上に、大容量のマシンタイプ通信、あるいはmMTCの新規格、およびすべてのマシンタイプのインターネット対応の超高信頼性低遅延に適用される他の規格は、IT管理者が現在医療用ネットワークを通過する信号の混乱を整理するのに役立つ。

医療用電子インフラの複雑さを解決する効率の良いデータネットワークを構築する際に、経費の節約ではなく人命を守る点が見失われる危険性がある。病院の情報システムの故障による人的コストは計り知れない。しかし、技術の複雑さに直面しながら成功できる業界の能力は、そのまま信頼しきっていいものではなく、ハードウェア、通信ソリューション、電池の寿命、セキュリティなどに関連したテストの堅牢なプロトコルが必要となる。これらは個別のテスト、および一緒のテストをする必要があり、動作を要求されている厳しい環境に耐えられることを確認する必要がある。さらに、このサポートに任命された担当者は、デバイスをモニターし、潜在的な障害が起きる前にいかなるものも発見できる必要がある。

これを達成するには、テスト機器とソフトウェアが、クラウドベースのSaaSテストソリューションも含めて、これらの機器が使用される業界と緊密に連携して進化していく必要がある。この戦略は医療業界だけでなく、計測業界にも利益をもたらすものであり、どちらの業界も、人々の健康やその製品を提供する市場の需要について、知見と信頼性をさらに高めることが可能である。

著者プロフィール

EE HUEI SIN
Keysight Technologies
Senior Vice President
President, Electronic Industrial Solutions Group