インターステラテクノロジズ(IST)は7月26日、観測ロケット「MOMO7号機」(名称:ねじのロケット)の打ち上げを実施する予定だったが、メインエンジンに着火する直前、点火器の温度上昇に異常が見つかり、自動停止した。同社は月内の打ち上げを目指していたが、改めて日程調整する必要があるため、再挑戦は数カ月後になる見込み。

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    射点に立つ観測ロケット「MOMO7号機」 (C)IST

点火器の問題が再発

MOMOは、メインエンジンでの着火に、市販のロウソクを材料とした独自の点火器を採用している。この点火器は2本使われているのだが、エンジンの正常な始動のためには2本ともしっかり炎を出す必要があるため、打ち上げの0.2秒前に温度をチェックし、規定値以下ならシーケンスを自動停止する仕組みになっていた。

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    点火器は、メインエンジンに着火するための“火種”となる (C)IST

MOMO7号機は、ちょうど1週間前の7月19日にも、点火器の温度異常のため打ち上げを延期していた。その後、点火器の分解や関連する系統の調査を行い、対策を施した上で今回の打ち上げに臨んだが、現象が再発した形だ。

前回(19日)も今回(26日)も点火器が原因ではあるものの、よく見てみると、起きている現象はやや異なる。前回は、1番より2番の点火が2秒も遅れ、これによって、2番の温度が基準を下回った。一方今回は、立ち上がりは同時だったものの、2番の温度上昇が遅かったため、やはり基準を下回った。

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    前回(左)と今回(右)の違い。前回は点火が遅かったが、今回は温度上昇が遅かった (C)IST

両ケースとも2番点火器の異常ではあったが、もしランダムな現象でも確率50%で同じ側になるので、2番に共通した何かが原因かどうかはまだ何とも言えない。ただこの現象が両側では起きておらず、1番は正常だったことを考えると、2番固有の問題である可能性も排除はできない。

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  • これが正常のケース。4号機(左)と5号機(右)の両方とも、多少バラつきはあるものの、1番も2番もすぐ温度が上昇していた (C)IST

今のところ、原因の特定には至っておらず、今後の詳細な調査結果を待つ必要がある。原因としては様々な可能性が考えられるが、現時点で有力視されているのは、(1)物理現象としてうまく燃焼していない、(2)燃焼はしているが計測するセンサーに問題がある、の2つだ。

何が原因なのか?

前回の問題で、同社が原因として疑ったのは、ガス酸素の配管内のオリフィスにコンタミ(異物)が詰まった可能性だ。点火器には、地上設備側からガス酸素を供給している。オリフィスは、その流量を調整するための部品で、小さな針穴のようなもの。ここをコンタミが塞げば、酸素の流量が減り、点火器の燃焼を阻害できる。

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    ガス酸素の配管の中にあるオリフィス。ここにコンタミが詰まった? (C)IST

コンタミの可能性として考えられるのは氷だ。MOMOは酸化剤として極低温の液体酸素を搭載しており、周辺を冷やす。前回は配管内の温度が氷点下になっていたため、空気中の水分が凍った可能性がある。この対策として、今回は配管の断熱を行っており、0℃以上だったことは確認できているという。

なお前回については、センサー側が原因だった可能性は小さいと見られている。温度自体は正常値まで上がっており、センサーの時定数や熱容量の問題でも、「2秒も遅れることは無い」というのが同社の見立てだ。ただ今回については、点火のタイミングは合っており、センサーの可能性も排除はできない。

しかしセンサーは点火器と一体になっており、前回からは新品に交換されている。それでも同じところで同じ問題が起きているわけで、点火器とセンサーそのものの問題ではなかったと考えるのが妥当だ。

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    前回から実施した事項。原因究明を行い、交換等の対策を実施した (C)IST

気になるのは、前回も今回も、気象条件の不良や船舶の侵入などで、同じように4回のウインドウが延期になり、2日目の夕方のウインドウでようやく点火できていたということだ。延期のたびに液体酸素を充填しては排出するという作業を繰り返しており、コンタミが溜まりやすい条件ではあった。

射場周辺は降ったり曇ったりの天候が続いており、湿度は高かったと考えられる。こういった影響について、同社の稲川貴大・代表取締役社長は「現時点では何とも言えない。湿度や雨の影響の可能性は捨てきれないが、気温の可能性は低いと考えている」とコメント、断定は避けた。

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    オンライン会見で説明を行ったISTの稲川貴大・代表取締役社長

今後の対策はどうなる?

同社が初めて宇宙に到達したMOMO3号機の打ち上げは2019年5月。これ以降の2機はともに失敗しており、宇宙からは1年以上遠ざかっていた。早期の商業化・量産化を目指す同社にとって、7号機は1日でも早く打ち上げ、2回目の成功を実績としたかったところだが、もうしばらく待つことになってしまった。

再打ち上げのスケジュールは、原因の究明や再発防止の対策の進捗にもよるだろうが、関係機関との再調整が必要になるため、目指していた月内の打ち上げは断念。この調整は「数日や数週間では無理。数カ月レベルになる」(稲川社長)とのことで、打ち上げ日程については「改めてアナウンスしたい」とした。

今後、地上側だけの対応ですむのか、それとも機体側の改良も必要になるのかは分からない。ただ、姿勢制御用のガスジェネレータは2回点火しており、極低温の液体酸素の充填も繰り返した。こういった熱サイクルは機体への負荷となるため、各所の健全性を1つ1つ確認し、問題がある部品を交換するメンテナンス作業も必要だ。

今までの打ち上げにおいて、点火器の問題で中止したことは一度も無かった。その問題が2週連続で発生したこともあり、稲川社長は今後、点火器の単体試験を実施する意向。点火器はリハーサルでは作動させないが、エンジン点火まで行うCFT試験(3号機で実施)については、「機体の大改造が必要になるため難しい」と否定的な見方を示した。