東芝デジタルソリューションズ(TDSL)の取締役社長に2020年4月1日付で就任した島田太郎氏は2020年7月16日、社長就任後初となる会見をオンラインで実施し、ICTによるデジタル化をグループ全体で掲げる東芝の中における自社の役割や、目指すべき方向についての説明を行った。

島田氏は、「東芝の事業を横ぐしにして機能別にみると、半導体やモーターなどの『デバイス・プロダクト』、それらを活用した『インフラの構築』、それらインフラの保守や運用のための『インフラサービス』、そしてそれらのインフラで得られた情報をもとにした付加価値を提供していく『データサービス』と分かれるが、中短期で重要になってくるのがインフラサービス。ここをマニュアル作業で行っていくのでは、高い成長率や利益率を達成することは難しい。だからこそ、そこにCPS(サイバー・フィジカル・システム)を活用することで、データサービスの領域に変えていくことが必要で、その中核的な役割を担うのがTDSLという存在」であると、TDSLの東芝グループの中での立ち位置を説明。東芝グループにおけるインフラサービスのデジタル化において、TDSLがリードしていくこと、ならびにこれまでの顧客とは異なる新たな領域からの収益を上げていく取り組みも併せて担っていきたいとの考えを示した。

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  • 2020年度における東芝の事業セグメント。インフラサービスをデジタル化することで、現在の中核事業から将来の中核事業への変革を目指している (資料提供:東芝デジタルソリューションズ)

すでに東芝がインフラとして活用される素地は同氏が東芝に入社する前から整えられてきた。発電関連分野などが東芝のインフラとして思いつきやすいが、東芝テックが提供するPOSシステム(レジ)は、国内で高いシェアを有するなど、買い物というインフラで強い存在感を示している。すでに、東芝テックの「スマートレシート」を核とするプラットフォームビジネスの展開が進められているほか、東芝の内部のみならず、外部の企業などと協力してユーザーファーストで新規事業創出を目指すIoTサービスのオープンな共創を目指す「ifLinkオープンコミュニティ」も2020年度より本格的に活動を開始、すでに約100社から賛同を得ているという。

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  • すでにサービスとして提供を進めているスマートレシートやifLinkオープンコミュニティの概要 (資料提供:東芝デジタルソリューションズ)

島田氏は、「Society 5.0はサイバーとフィジカルが融合する時代。様々な社会インフラシステムとして多くの東芝の機器がサイバーとフィジカルをつなぐタッチポイントとして活用されている。これらのフィジカルで生み出される情報を集め、サイバーの情報と組み合わせることで、未来的な価値創造、ひいてはサイバーツーサイバーで成長を遂げてきたGAFAのような企業に匹敵するような株式価値を生み出していきたい」と、東芝グループがこれからの社会において、強みを発揮できる環境が整いつつあることを指摘する一方、多くの日本企業におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の定義が不明確で、DXをやるだけで利益が上がるという勘違いなどが横行し、結果として外資のコンサルやソフトメーカーの言われるままに行うことで、DXがうまく進まない状況に陥りやすいともし、東芝グループとしては、そうした状況に陥らないように、「DXとは何かを理解する」、「実際にやってみる」、「本格展開」という3段階でDXの実現に向けて歩を進めており、「東芝のCDOを拝命して1年半ほどだが、ようやく本格展開できる段階にたどり着いた」(同)と、着実に地力を蓄えてきたことを語る。

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    オンライン会見で説明を行う東芝デジタルソリューションズの島田太郎社長 (画像提供:東芝デジタルソリューションズ)

同氏は「DXで重要なのはビジネスモデルであり、単にハードやソフトを売る、というわけではない。東芝というこれまでの会社のあり方は、ハードを売りたくなるのだが、ハード単体ではなく、これを10倍の価値を生み出すサービスとして売り出す。これまではここから先のサービス領域は顧客の仕事、といったように、東芝がやることが結果として顧客のメリットになるにも関わらず仕事の範疇を狭めてしまっていた」と、DXを活用していくようにする変化に向けて、社内でのピッチ大会の実施など、2030年度に向けて、投資規模が小さいテーマを中心に事業のタネの醸成を開始したとするほか、上記に挙げたオープンコミュニティなどもそうした取り組みの成果であるとし、「ソリューションを提供するのではなく、ソリューションのための道具を提供することで、IoTの民主化に向けた安価で、簡単にどこでも使えるようにすることを目指している」と、TDSLの目指している方向性を示した。

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    東芝のCPS事業の目指す姿 (資料提供:東芝デジタルソリューションズ)

こうした取り組みは、分野の垣根を越えて進められており、すでに自動車メーカーや部品サプライヤの枠を超え、車載システムの共同デジタル試作を可能にする「分散・連成シミュレーションプラットフォーム(製品名:VenetDCP)」の提供や、作業員の位置・動作・発話などの情報を収集・見える化・分析し、現場の作業効率や生産性向上に向けた現場作業見える化パッケージ「Meister Apps」、各種画像処理装置を活用することで自動的に非金属介在物測定を可能とする「METALSPECTORシリーズ」など、産業分野に対するソリューションの提供を拡大している。島田氏も、「製造業のみならず、社会の人々の生活情報などを活用していくことで、これまでと異なる情報化社会をTDSLがリードしていきたい」とし、幅広い分野のデジタル化に向けた縁の下の力持ち的な役割を担っていきたいとしていた。

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    サイバーとフィジカルの融合が求められる時代に適用を模索する東芝 (資料提供:東芝デジタルソリューションズ)