2020年3月に中国上海で開催予定であった「SEMICON China 2020」が3か月遅れとなる6月27日~29日にかけて開催された。
半導体製造装置や材料サプライヤの展示は従来どおり「上海新国際博覧中心(SNIEC)」でリアルな展示会として開催されたが、技術セミナーや併催であるIEEE/SEMI主催の「中国国際半導体技術大会(China Semiconductor Technology International Conference 2020:CSTIC 2020)はすべてオンデマンドのビデオ講演の形態で提供され、2020年7月中旬まで視聴可能となっている。
2月に韓国ソウルで開催されるはずであった「SEMICON Korea」は中止となり、7月に米国カリフォルニア州サンフランシスコで開催予定の「SEMICON West」も展示会、講演会ともにすべてWeb上でのバーチャル展示・講演会として開催される予定となっている。そのような中、SEMICON Chinaの展示会がリアルな会場を活用して開催を強行した背景には、中国内の新型コロナウイルス感染が終息し、中国の半導体および関連産業が正常な状態に戻っていることを世界にアピールする狙いがあると見られる。ただし、昨年は約1200社が展示ブースを出したが今年は3割減の800社台に減ったほか、参加者の新型コロナウイルス感染防止を徹底的に行うことを目的に、参加者に対し、以下のような参加条件を提示しており、すべてを満たさないと入場できない仕様になっていた。
- 身分証やパスポートなどで確認できる本名による登録 (会場受付で登録の際、提示を要求。新型コロナウイルス感染問題が生じた場合、連絡や追跡を正確に行うため)
- 上海グリーンQRコードの保持(政府が個人の過去の治療歴や渡航歴などをデータベースで調べて個人の健康状態を赤黄緑で判定してスマートフォン上に表示される2次元コード。上海入境14日間隔離後ではないとグリーンQRコードは発行されない。会場入口で提示を要求)
- マスクの常時着用
- 体温測定(会場入口で促音要求。37.3℃以下であることが必要)
また、入場日時も予約制とし、会場に入れる人数制限を行い、入場後も会場内で1m以上のソーシャルディスタンスを保つことが要求される異様な雰囲気の中での開催となった。
世界をリードするメモリメーカー目指すYMTCのCEOが基調講演
SEMICON Chinaのオープニングとなる基調講演セッションが6月27日、会場ならびにオンラインの両方で開催された。中国の清華紫光集団傘下の新興NANDフラッシュメモリメーカー長江存儲科技(Yangtze Memory Technologies:YMTC)CEOのSimon Yang氏が、「YMTCの革新的試み、フラッシュメモリの将来の可能性」と題して講演し、その中で「2020年下半期に幅広い電子機器向けの最初の自社ブランドストレージ製品を出荷する」と述べ、台湾や韓国の複数メディアが先んじて報じていた内容の正しさが裏付けられることとなった。
同氏は「YMTCは、パソコン、エンタープライズストレージ、クラウドコンピューティングだけでなく、ハイエンドのスマートフォン、セットアップボックス、タブレット、およびその他の家電製品向けに自社ブランドの幅広いストレージ製品を構築し、世界をリードするデバイスメーカーをめざす」と語り、その実現に向けた意欲を示した。
2016年に創設されたYMTCは2019年末に64層3D NANDフラッシュメモリの生産を始め、他社の手掛ける96層をスキップして128層3D NANDの開発に成功し、年内にも生産を開始する予定としており、先行する競合各社とのギャップを一気に縮めたいとしている。
同社は、「新型コロナウイルスの最初の震源地となった武漢に6000人の従業員を抱える本社工場があるが、都市封鎖の中にあっても工場を閉鎖せずにすんだ。先週(6月20日)、第2期工事を始め、最終的には現在の3倍の月産30万枚(300mmウェハ)を目指す」としている。
細心の注意の中で米国製半導体製造装置を活用するYMTC
Yang氏が今一番気にかけていることは、ますます厳しさが増している米中のハイテク覇権争いや貿易戦争に同社が巻き込まれないようにすることだという。
米トランプ政権がHuawei/HiSiliconを含む多くの中国のハイテク企業を、アメリカのテクノロジーへのアクセスを制限するいわゆるエンティティリストに載せ、例えば、中国の新興DRAMメーカーであるJHICCが米国メモリメーカーの技術を不正に入手したとの理由で、2018年に米国半導体装置メーカーとの取引を禁止した。YMTCがHuaweiやJHICCのような扱いを受けないように細心の注意を払っているとYang氏は述べている。
「YMTCは、米国の製造装置メーカーであるApplied Materials 、Lam Research、KLA-Tencorの先端半導体製造・検査装置に依存しているので、これらの企業からの装置導入が禁止されぬように注意を払ってきた。我々は製品販売を開始するにあたり、"知的財産権を最重視して2000件を超える特許を蓄積し、グローバルのパートナーから1600件を超える技術ライセンスを入手して、海外企業から特許侵害で訴えられないように注意を払っている"」と知的財産を重視していることをYang氏は強調。また、「世界のすべての企業は、グローバルな協力なしに単独で技術開発を行うことはできない。当社は、今後とも米国を含めグローバルに海外企業とパートナーシップの関係を築いていく」ことも強調していた。
なお、Yang氏は、米国ニューヨーク州の大学で工学博士号を取得後、ポートランドのIntel研究開発センターやシンガポールのGlobal Foundries(旧Chartered Semiconductor)に勤務したこともある国際派経営者である。