半導体業界をけん引するMore MooreとMore than Moore

「ムーアの法則(Moore's Law)」は半導体業界の核心であり、「ノード」でトランジスタのサイズを縮小し、各チップに小型で高速なトランジスタを集積するという単一の焦点と飽くなき意欲に支配されています。

そうしたトランジスタの微細化による性能向上を目指す「More Moore(モア・ムーア)」に対し、「More than Moore(モア・ザン・ムーア)」のデバイスは、デジタル・エレクトロニクスがアナログの世界に出会う、テクノロジーにおける新しい機能の多様化を表しており、5G、IoT、自動運転技術からニューラルセンサーといったさまざまな新しいアプリケーションの登場により、劇的に拡大する兆しを見せています。

また、半導体メーカーの多くが今もなおサイズ、速度、電力を重視しますが、最先端のノードで最高のジオメトリを作成するために必ずしもすべての最先端のテクノロジーを必要としないことも事実であることを理解するべきでしょう。

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More than Mooreの技術的な課題とは?

More than Mooreにおいて、チップ製造業者が直面する技術的課題はそれほど困難ということではありませんが、独自の構造やシリコンとは異なる材料を用いるなど、要件はそれぞれの場合で異なってきます。多くの場合、そうしたデバイスは、シリコン半導体の大きなノード向けに開発された製造装置とプロセスアプリケーションを使用して製造されてきましたが、現在では新しい技術と最先端の知見によって進化しつつあります。

現実とデジタルの間で情報をやり取りするために必要なチップと回路のタイプ、およびそれらが提示する製造上の課題を見ていきましょう。

センサーとトランスデューサ

センサーとトランスデューサは物理量の変動を電気信号に、またはその逆に変換します。それらが変換する量、温度、圧力、運動など、およびそれらが生成する信号は通常はアナログです。それは、値の範囲に応じて絶え間なく変化します。

センサーの値は感知する量に応じて変化します。現代の自動車は数百を超えるセンサーを搭載し、エンジンに必要な燃料混合気から車内での一酸化炭素濃度まで、あらゆるものをモニタリングしています。加速度センサーは衝突を検知し、エアバッグを展開します。ジャイロセンサーは変位を検知します。自動運転車は周囲の状況を把握するために、膨大な数のセンサーを搭載しています。次世代スマートフォンに搭載されるセンサーは、ハッキング対策のために指紋の3D認識を可能にし、高感度マイクがホーム・オートメーション・システムに向けたコマンドに反応します。バイオメディカルセンサーに至っては、人間の健康状態のみならず、何をどのように考えているのかまでもモニターすることを可能とします。

多くのセンサーはMEMS(MicroElectroMechanical Systems)として半導体製造で使われる素材と同様のシリコンやプロセスを使用して製造されますが、加工寸法はシリコンで製造される半導体デバイスに比べれば遥かに大きなものです。そんな加速度センサーとジャイロであっても、高い性能を実現できることが示されています。また、3D指紋センサーや高感度マイクでは、新たなプロセスや成膜およびエッチング技術を必要とする高度な圧電材料素子を使用することで実現されています。

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アナログとミクスドシグナル

センサーから出力された電気信号の多くは通常、電圧や電流をアナログの波形に変換したままの状態です。それらを活用するためには増幅やフィルターなどさまざまな調整が必要ですが、これはアナログ回路の仕事です。こうしたアナログ回路は音響システムのスピーカーに送られる音声信号を増幅させるなど、別の場面でも利用されています。

もう一方の重要なアナログ・アプリケーションはWi-Fi、Bluetoothといったワイヤレス通信や、運転支援システムのレーダーに使用されるような無線周波数信号です。アナログ回路は必ずしも小さなジオメトリにとって有益ではありません。アナログ回路は1つのコンポーネントのわずかな変化の組み合わせが、回路全体に予期せぬ結果をもたらす可能性があるため、設計や製造が非常に困難になる場合があるためです。

また、ミクスドシグナル回路はデジタルとアナログのコンポーネントを組み合わせたものです。アナログ信号をデジタルに、またはその逆に変換するデバイスはミクスドシグナルである必要があります。

デバイスのユーザーからは、より少ないチップ数で、さらに多くの機能の実現を要求されるため、こうしたタイプの回路のニーズは急速に拡大しています。同一チップ上でアナログ向けのバイポーラ、デジタル向けのCMOS、電源向けのDMOSといった異なる種類のトランジスタを形成する製造工程は、デジタル回路が大きな割合を占めるCPUなどとは異なる要件のものとなります。

それでもミクスドシグナル回路の製造は現在、200mmウェハから300mmウェハに移行しつつあり、CMOSプロセスで同様のウェハサイズの移行が行われたときに設計された製造装置たちの活用の場(ブリッジツール)としての候補となっています。

電源

電源の供給と管理はあらゆるデバイスにとって不可欠な要件です。例えば風力タービン向けや高速列車向けのハイパワー・デバイスから、電気自動車に見られる急速充電やハイパワー・デバイスなどが挙げられるほか、急速充電と電源管理は小型モバイルや手の平サイズのデバイスにも求められる要件です。

これらはそれぞれ異なった技術を用いています。あるものは大きな横寸法の薄い垂直構造を含みます。また、GaNやSiCなどのワイドギャップ半導体がもとになっているものもあります。

Lam Researchは今から15年ほど前に300mmウェハ対応のエッチング装置(RIE)「Versys Kiyo45」を製品化しました。同装置は、近年、GaNやAlGaN基板のエッチングニーズの高まりに合わせて200mmウェハへの対応を果たし、ブリッジツールとしての活用が進められつつあります。

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光通信と光電子デバイス

ネットワークが5G通信への移行を開始すると、回線速度をより高速化することを目的に光デバイスに対するニーズが増加します。これらのデバイスは光信号と電気信号を変換するために活用され、主にレーザーダイオードやLEDが用いられることとなります。変わった例としては、小型のLED(マイクロLED)をスマートフォンのディスプレイとして活用しようという動きがあり、現在、開発が進められています。

こうした光デバイス、例えば光検出器(フォトディテクタ)は光を信号として受信し、電気に変換します。電気光学変調器(EOM)は、光信号の位相フェーズ、周波数、振幅、偏光などの調整に用いられます。そして光アイソレータは反射戻り光を防ぎ、導波管はチップ内で信号を送ります。

アクティブな光通信および光電子デバイスは、ワイドバンドギャップ化合物半導体で構築されることが多いですが、導波管のような受動素子は基本的にシリコンベースです。これらは製造工程において高いレベルでのウェハ間の波長均一性、および屈折率などの光学特性の厳密な制御を要求します。

コネクテッドデバイスの急速な普及により、ポータブル、ウェアラブル、IoTや5G通信、クラウドストレージ、自動運転技術などの無数の新しいアプリケーション分野は、それぞれに特化した製造装置のニーズを創出しています。これらのデバイスの多くは、高度なノードによる微細なプロセスを必要とせず、より技術の枯れた古いノードで導入されたシステム上でシステムを構築することができます。しかし、その多くは特定の調整や、新しい技術と最先端の知見を活用した選択的な機能の向上などが求められることを覚えておく必要があるでしょう。

著者プロフィール

ミッシェル・バーク(Michelle Bourke)
Lam Research
戦略マーケティング・ディレクター

エッチング・プロセス・エンジニアおよびプロダクトマーケターとして半導体設備業界でのキャリアを築く。現在はLam Researchにて戦略マーケティング・ディレクターとしてカスタマーサポートビジネス部門を統括

ヘリオット・ワット大学(英国スコットランド)
光電子工学レーザー/レーザー工学 理学学士