韓国の産業通商資源部(日本の経済産業省に相当)は1月9日、同部の成允模(ソンユンモ)長官が1月8日(米国西海岸時間)に米サンフランシスコにおいて、化学素材メーカーであるDupontの子会社Dupont Electronics and Imaging(E&I)のジョン・ケンプ(Jon Kemp)社長らと「韓国政府-Dupont投資会議」を開催。Dupontがその場で韓国政府の要請にこたえて(日本が輸出管理を厳格化した素材3品目のうちの1つである)EUVレジストを韓国で製造するための新規投資を行う約束を取り付けたと発表した。

ケンプ社長はその場でEUV用フォトレジスト生産工場を韓国に建設するための投資申告書を大韓貿易投資振興公社(KOTRA)へ提出したという。投資規模は2021年までに計2800万ドル(約328億ウォン、約30億円)だとしている。

すでにDupontは韓国忠清南道天安(チョンナン)市に(日本が輸出管理の厳格化を行った素材3品目のうちの)フッ化ポリイミドの原材料はじめ電子材料を製造する工場を2つ有しているがEUVレジスト製造工場もこの工業団地内に建設され、Samsung Electronicsなどのユーザーに向けて供給される予定だという。

最近、日本政府はEUV用フォトレジストの輸出について個別許可から特定包括許可に切り替えたが、この点に関して成長官は「日本の輸出規制措置を解決する上で一部進展があった」と評価しつつ、一方で、「根本的な解決策とは見なしがたい」とし、「韓国政府は日本への依存度の高い素材・部品・装置/設備に関する調達先の多角化を今後とも継続的に推進していく」とコメントしている。なお、EUVレジストは、信越化学、東京応化、JSRの日本企業3社で世界市場のシェアの9割以上を占めているとされているが、韓国の半導体業界関係者によると、これで日本への依存度が高い素材・部品・装置/装備の国産化および調達先の多角化にはずみがついたと今回の米国企業誘致成功を歓迎している。

CMP用パッドも韓国で製造 - Dupont

また、韓国通商産業資源部によると、Dupontは韓国政府に対して、EUVレジストだけではなく、同社が高いシェアを誇るCMP用パッドも韓国内で製造する計画ことを確約をしたとしている。

DupontがEUVレジストとCMP用パッドを製造する工場の建設予定地である天安外国企業専用産業団地は、一定条件をみたせば、土地が無償で貸与され、法人税や所得税など税制面でも優遇措置を受けられる。韓国政府は、日本政府による韓国向け半導体・FPD素材の輸出厳格化の発表以降、素材・部品・設備/装置の国産化(外国企業による現地開発・生産を含む)を推進しており、これらの開発テーマに補助金を出すほか「研究開発費用税額控除」を2020年2月1日より開始し、さらなる国産化を促進するとしている。

また韓国政府および韓国半導体企業は、日本政府による韓国への輸出管理の厳格化を発表した2019年7月以降、Dupontをはじめとする海外企業に向けて韓国内での素材製造に向けた要請を行ってきたといわれている。また、韓SK Siltronは2019年秋にDupontの電子・イメージング事業部門からSiCウェハ製造部門を買収している。今後、Dupontは韓国内の主要需要企業と製品実証テストや共同開発を進めるなど、緊密に協力していく計画だという。

国を挙げて、米国からの企業誘致活動を展開する韓国

なお、成長官は今回の渡米に伴い、米シリコンバレーにてLam Research、Air Productsといった米国の素材・部品・装置/設備、およびベンチャーキャピタルなどの企業を招聘して円卓会議「Korea-North America Investment Roundtable2020」を開催するなど、積極的に韓国での製造工場建設や投資誘致活動を進めており、Dupontとのミーティングもその一環であるという。このような韓国政府の積極的な米国企業の誘致活動が進むことで、日本の半導体/FPD素材メーカー各社の韓国におけるビジネスに影響が出ることが懸念される。

  • Dupont

    韓国政府と北米企業各社との投資誘致円卓会議の一環として開催された韓国政府とDupontとの投資会議におけるDupontの韓国投資申請調印式(中央が韓国通商産業資源部長官の成允模(ソンユンモ)氏、右がDupont Electronics and ImagingプレジデントのJon Kemp氏) (出所:韓国通商産業資源部Webサイト)