半導体産業において第1四半期は季節的に閑散期にあたるが、2020年第1四半期のNAND需要は堅調に推移するため、供給が間に合わず、大口契約価格は上昇が続くとの予想をTrendForceが発表した。2019年のNANDのビット需要の増加は主にPC向けであったが、2020年の需要の大部分はサーバー向けになるという。

TrendForceの調べによると、SSDの契約価格は2017年第3四半期にピークを打った後、2019年第2四半期まで7四半期連続で下落し続け、HDDの価格をわずかに上回るとことでとどまった。この結果、ノートパソコンで使用されるSSDのシェアと搭載メモリ容量は増加傾向となっている。一方の供給面では、キオクシア(旧東芝メモリ)とWestern Digitalが共同運営するキオクシア四日市工場で2019年6月15日に停電が発生。両社はNANDの生産量を減少させる必要が生じたため、2019年第3四半期のeMMC/UFSおよびSSD製品の価格下落が止まったほか、2019年第3四半期には、NANDのウェハ取引価格が20%の上昇となり、2019年第4四半期にはeMMC/UFSとSSDの契約価格も強い回復を見せたという。

2020年、さらに高まるNAND需要

需要側の観点からは、2019年第4四半期の契約価格の上昇とそれに続くクライアントSSDのビット需要の減少にもかかわらず、データセンターのクライアントが2020年に新しいプロジェクトの準備を積極的に進めているという。これが2019年第4四半期に在庫積み増しのための需要を生み、エンタープライズSSDの供給不足をもたらしたと見られており、この動きが続くことから、エンタープライズSSDの契約価格はしばらく上昇が続く見込みである。さらに、携帯機器向け在庫積み増しに伴う需要も2019年第4四半期以降に増加してきており、この背景にはAppleが新しいiPhoneのリリースを準備しているためということが囁かれている。これらの動きから、TrendForceでは、NANDの全体的な需要は季節的な閑散期にもかかわらず高まっていくと予測している。

供給不足に陥る懸念も

供給側の観点からは、NANDサプライヤ各社は2019年第2四半期に損益分岐点に到達あるいはそれを超えて損失を計上することとなってしまったため、2020年の設備投資を削減する方向性で調整を進めてきた。その結果、NANDの生産能力の拡張と3Dレイヤーの増加スケジュールは、これまでに比べて比較的控えめなものになっている。

NANDサプライヤ各社の生産能力計画に関しては、2020年のビット出荷数量は前年比30%強の増加とTrendForceでは予測しているが、この値はこれまででもっとも低い計画目標だという。また、キオクシア四日市工場の停電の影響もあり、2019年はビット出荷数量が減速。生産量は前年比で35%を超えておらず、2020年も出荷数量の伸びが低いため、供給不足がさらに強まるとTrendForceでは予測している。

契約価格は上昇傾向

こうした需要側、供給側の動きを踏まえ、TrendForceではNANDの契約価格は2020年第1四半期も上昇が続くとの見方を示している。

また、クライアントおよびエンタープライズSSDの供給不足はeMMC/UFSの供給不足よりも顕著となるため、SSDの価格上昇は組み込みメモリ製品の価格上昇よりも高くなるとしているほか、2020年第2四半期は、新型スマートフォンとゲーム機の在庫の積み増しが進む業界のピークシーズンが到来するため、価格の上昇傾向は続くと予想している。

さらにチャネル市場のウェハ契約に関しては、売上総利益率が低いため、比較的高い利益を上げるSSDを優先させる結果、割り当てが減らされる見通しだという。加えて、サプライヤの在庫レベルも健全なままであるため、モジュールメーカーがウェハの契約価格の引き下げ交渉を行う余地はほとんどないため、2020年第1四半期の契約価格は前四半期比で10%超の上昇となるとTrendForceは予測しており、これは2019年12月下旬の10%を超える価格上昇が継続することを意味するという。

また、TrendForceの見解とは別に、台湾メディアであるDigitimes(電子版)は1月2日付けで、複数の大手NANDメーカー情報として、2020年のNANDの契約価格が最大40%上昇するとの予測を伝えている。半導体市場動向調査会社の米IC Insightsも、すべての半導体カテゴリの中でNANDがもっとも高い成長率(19%)を示すと予測しており、2020年のマーケットドライバとしてNANDに注目が集まりつつあるといえるだろう。

大みそかに起きたSamsungの工場停電

ところで、韓国の京畿道華城(ファソン)市にあるSamsung Electronics華城半導体工場で2019年12月31日の午後に地元の変電所における送電線トラブルで1分程度の停電が発生し、NANDを生産しているライン12、DRAM生産のライン11、システムLSI/ファウンドリのライン13などで一時生産が中断したと韓国および台湾の複数メディアが伝えている。すぐに無停電電源に切り替えられたとも伝えられているが、完全復旧には数日を要し、被害については現在調査中であるという。韓国半導体産業関係者は、短期的には半導体メモリの価格に影響する可能性が高いとの見方を示しているが、Samsungが抱えている相当数のメモリ在庫の削減に寄与するとの見方もある。

  • Samsung

    Samsung Electronics韓国華城(ファソン)工場の全景(写真は中央左側のEUV棟完成予想図を含む合成だが、現在、EUV棟の建屋は完成し、周辺整備工事が行われている。同社は2020年中のEUVを用いたシステムLSI量産を計画している) (出所:Samsung Newsroom)

なお、Samsungは過去にも何度か停電事故を経験し、損害を出している。直近では、2018年3月9日に京畿道平沢(ピョンテク)半導体工場で40分間の停電が発生し、NANDの生産ラインも20分間ほど停止したため、総額500億ウォン(約50億円)の損失を計上したとSamsungは後日発表している。工場内の変電設備が故障したため、非常用電源装置が稼働したが、同装置が20分間しか電力供給できず、変電所が再稼働するまでの約20分の間、電力供給が完全に中断したという。今回起きた停電は、1分程度といわれているので停電時間は短かったが、多くの種類の半導体製品の製造ラインに影響が出た模様である。