韓SK Hynixは、2019年9月1日付けで東京都内にCMOSイメージセンサのR&Dセンタ(日本研究所:略称はJRC)を開設していたことが、同社の11月8日付けプレスリリースで明らかになった。

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    SK Hynixが本社工場で製造しているCMOSイメージセンサ (出所:SK Hynix)

同社は、世界の最先端イメージセンサの研究開発や製造の本拠地ともいえる日本に研究施設を設立することにより、CMOSイメージセンサの技術的ノウハウを持つ優れた人材を確保し、グローバルネットワークの構築を通じて自社の技術力を強化することを目指すとしている。

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    SK Hynix JRCが入居した東京浜松町のビル (出所:SK Hynix)

初代所長には、ソニー半導体部門出身の志村雅之氏が就任した。同氏は、NEC(1982~1987年)、ソニー(1987~2015年)、中Huawei Technologies(2016~2018年)を経て2019年1月にSK Hynixに入社し、日本での研究所設立の準備をしていた。SK Hynixは所長人選を含めて1年以上前からに日本に研究所を設置する準備を進めていた。

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    SK Hynix JRC初代所長の志村雅之氏 (出所:SK Hynix)

志村氏は「ソニーは世界最大級のイメージセンサメーカーだが、日本にはこのほか大小さまざまなイメージセンサーメーカーが存在している。主要な市場調査機関であるIHS Markitによると、ソニーは現在、2019年の第1四半期に51.1%の市場シェアを達成し、イメージセンサ市場をリードしている。中国などの海外企業も日本に研究センタを設立して、日本の技術を吸収しようとしている。SK Hynixが日本でJRCを開くことは重要である。新施設開設により、SK Hynixは日本に集中した多様なCMOSイメージセンサに関するリソースへのアクセスが可能になる。主要な日本の大学との共同研究開発も視野に入れており、新しいCMOSイメージセンサ技術の開発を含めCMOSイメージセンサビジネスのさまざまな面でSK Hynixに貢献することが期待されている」と話している。

マルチカメラ時代のコアテクノロジー

「電子機器の目」としても知られるCMOSイメージセンサは、スマートフォン(スマホ)、車両、医療、セキュリティなどのさまざまな分野での幅広い用途と重要性により、センサ市場で注目を集めている。マルチカメラ搭載スマホの時代が到来しており、CMOSイメージセンサ技術者の需要は急増している。

市場調査機関であるテクノシステムズリサーチ(TSR)によると、スマホに搭載されるカメラの平均数は2023年までに4個を超える。スマホの生産数そのものが停滞期に入った近年も、リアカメラを2個以上搭載するスマホの割合は2019年の71.1%から2020年には84.4%、2021~2年では89.6%に増加し続けると予想されている。

また、注目すべきは、イメージセンサの総売上の60%がスマホへの応用から得られていることである。

「スマホ用マルチカメラは、ミドルおよびローエンドのスマホからハイエンドスマホまで、幅広い範囲で、イメージングアプリケーションだけでなく、センシングアプリケーションとしてさらに開発され、活用される」と志村氏は述べている。また、「3次元構造を認識する3Dカメラを含むイメージセンサと関連システムの登場により、処理が必要な大量のデータが発生する。5G時代の到来が目前に迫っているが、画像センサがエッジデバイスとしての役割を果たすことができれば、5Gがもたらす可能性を備えた新しいソリューションやビジネスを創造できるようになるだろう」ともコメントしている。

SK Hynixの次世代ビジネス拡大の足場に

SK Hynixは、CMOSイメージセンサ開発と製品化に注力する理由について「DRAMとNANDに注力することで堅調なビジネスを続けてきたが、需要の変動により市場環境のアップダウンを経験している。半導体市場内のさまざまな製品ファミリの中で、CMOSイメージセンサはDRAMに類似している。したがってCMOSイメージセンサの技術開発に注力することにより、SK Hynixは市場環境に対応しながらビジネスの安定性を促進し、ビジネスを多様化できる」と説明している。

また、「当社のCMOSイメージセンサビジネスは現在、モバイル分野に焦点を当てている。ただし、CMOSイメージセンサは第4次産業革命のコアコンポーネントであり、拡張現実(AR)および仮想現実(VR)に不可欠である。この産業トレンドを踏まえて当該市場のシェアを高めるには、先端技術を盛り込んだ製品開発が重要となる。産業のトレンドは現在、高解像度、高性能が求められており、画像信号処理(ISP)技術の重要性が増している」と現状分析しており、JRCではこのあたりの人材リクルートに重点的に取り組むものと思われる。

SK Hynixは、新たにオープンしたJRCを介して市場のニーズを満たすための新技術を開発することを目指しており、SK Hynixは次世代CMOSイメージセンサビジネスへの道を開くために、JRCが足場としての重要な役割を果たすことを期待しているという。志村氏は、「革新的なソリューションの開発がこれらの期待を満たすために不可欠であり、JRCはより広い範囲で技術レビューに全面的にコミットしており、このコミットメントが新しいCMOSイメージセンサ市場の開拓のためのカギを握っている」とJRCの重要性を強調している。

半導体市場動向調査会社である仏Yole Développementの調べによると、2018年のモバイル向けCMOSイメージセンサにおける企業別シェアは、ソニーが50%、Samsungが24%、OmniVisionが14%、STMicroelectronicsが6%と上位4社だけで94%を占めており、SK Hynixの存在感はほとんどない。

SK Hynixは、韓国政府の非メモリビジネス強化方針に沿ってCMOSイメージセンサビジネスに力を入れ始めており、利川(イチョン)本社工場では一部のDRAMファブをCMOSイメージセンサ用に転用して300mmウェハを使って量産を始めている。JRC設立も含めて、今後のSK HynixのCMOSイメージセンサ分野の動向が注目される。