米国の大手化学メーカーDuPontの子会社で電子材料の製造などを行っているDupont Electronics & Imaging(E&I)は、同社のSiCウェハ製造事業を担うCompound Semiconductor Solutions(CSS)部門を製造装置や知的財産権を含めて韓国のシリコンウェハメーカーであるSK Siltronに売却することで合意に達したと9月10日(米国時間)に発表した。

米国はじめ各国の規制当局の認可を得たのち、今年末までに売却手続きを完了するとしている。関係者によるとSK Siltronの買収額は4億5000万ドル(約484億円)で、同社の年間売上高1兆3000億ウォンの3分の1を超える金額を買収に充てることになる。

DuPont Electronics & ImagingのJon Kemp社長は、我々は、パワーエレクトロニクス向けSiCウェハ製造に関する最新技術を所有している。しかし、自社のエレクトロニクスおよびイメージング事業において戦略上優先順位が高いビジネスではない。そうした点を踏まえ、SiCウェハ製造事業については、我々よりもウェハビジネスに焦点を絞るSK Silronが所有したほうが良いと判断した結果、売却に合意した。SiCウェハ製造事業がSK Siltronのオーナーシップの下でさらに発展すると信じている」と述べている。

日本からの追加輸出規制強化への対策か?

SK Siltromは、韓国唯一のシリコンウェハサプライヤとして現在、200mmおよび300mmシリコンウェハ(エピウェハを含む)を韓国内で製造し、Samsung ElectronicsやSK Hynix、TSMC、Micron Technology、東芝メモリなどの大手半導体メーカーに納入しているが、これまで化合物半導体関連はまったく扱ってこなかった。

世界のシリコンウェハ市場は日本の信越半導体とSUMCOの2社を合わせたシェアで過半数を占めており、世界3位の座をシェア10%台のSK Siltron、Siltronic(ドイツ)、Global Wafers(台湾。東芝セラミックス→コバレントマテリアルを買収し、そのシリコンウェハ工場を所有)が競い合っている。

SK Siltronは今後、電気自動車が普及することに目をつけ、高耐圧で耐熱性に優れたパワーデバイス用のSiC基板を新たに手がけることで、非シリコン基板でも国際競争力を維持し、今後のさらなる成長を狙うとしている。

韓国政府は、半導体製造向け素材や製造装置における日本への依存をやめて国産化を目指す方針を打ち出しており、今回の買収はその方針に沿ったものといえる。半導体ウェハは日本への依存度が高く、日本が追加の輸出規制強化を図る場合にはウェハ関連は最有力候補との見方が韓国半導体業界内に広がっており、SK Siltronは、先手を打ってポストシリコンといわれるSiCウェハ製造事業を買収したのではないかとの見方が韓国内では有力である。

日本依存からの脱却を目指すSKグループ

SK SiltronのSiC事業買収の背景には、同社の親会社であるSK Holdings(SK財閥の中核会社)の、半導体産業のグローバルサプライチェーンを構築しようという戦略が見え隠れする。

SK Holdingsは2016年に半導体用特殊ガスメーカーのOCI Materialsを買収しSK Materialsと改名した。同社は三フッ化窒素(NF3)と六フッ化タングステン(WF6)で世界トップシェアを誇り、四日市の日本支社から日本国内の半導体企業にも供給している。2017年にはSK Matrialsと昭和電工が合弁で窒化膜エッチング用の高純度ガスCH3F(モノフルオロメタン)を製造販売するSK ShowaDenkoも韓国に設立された。さらに同年、SK HoldingsはシリコンウェハメーカーのLG SiltronをLGグループから買収し、SK Siltronに改名している。

2019年7月以降、半導体ならびにディスプレイ材料3品目の対韓輸出管理が強化されたわけだが、SKグループの化学メーカーであるSKCは該当材料のフッ化ポリイミドを、SK Materialsは該当する無水フッ化水素ガスに新規参入を決めている。

このように、傘下に売上高世界3位の半導体企業SK HynixをかかえるSKグループは、日本製に頼らない半導体材料のグローバルサプライチェーンの構築を促進する取り組みを進めているように見える。日本製に頼らないということは、単に日本企業に頼らないということではなく、今後は日本を含む海外企業との合弁事業などを通じるなどの手段も含め、韓国外、日本も含めた半導体企業にも拡販していくことで、その地位を相対的に高める可能性がでてきたと言えるだろう。