半導体製造装置材料の業界団体である国際半導体製造装置材料協会(SEMI:Semiconductor Equipment and Materials International)の業界調査および統計担当ディレクターのClark Tseng氏は、7月中旬に米国で開催された半導体製造装置ならびに材料に関する展示会「SEMICON WEST」併催のSEMIマーケットシンポジウムにて「市場展望:ファブ設備投資、製造装置及び材料予測」と題して講演を行った。
半導体業界の現状
Tseng氏によると、SEMIが独自に集計した統計や半導体市場調査会社の統計データをもとに半導体デバイスおよび半導体製造装置材料業界の現状(主に今年1月~5月の状況)をレビューした結果、以下のようなことが見えてきたという。
- 世界の半導体市場の売上高実績(2019年1月~5月の累積)は前年同期比13.7%減。国・地域別で見た場合、米国が同27%減、日本が同12%減、中国が同10%減、欧州が同7%減と各地で減少
- 2019年の半導体市場について、市場調査会社は2018年末~2019年年初時点では前年比2.4%プラス成長(WSTSを含め各社平均)を予測していたが、2019年央時点では10.6%減(平均)に大きく下方修正。この講演後、Gartnerも新たな予測を発表したが、その値も同9.6%減となっており、同じ流れを汲んだ下方修正である
- 2020年の半導体市場については、すべての半導体市場調査会社はWSTSを含めてプラス成長を予測しており、その平均は同7.8%増
- DRAM市場の売上高実績(2019年1月~5月累計)は前年同期比33.4%減
- 台湾の半導体業界の2019年第1四半期の実績は、ファウンドリが同12%減、OSATが同26%減ながらファブレスは同14%増
- 2019年第1四半期のシリコンウェハ出荷額は前四半期比6%減、前年同期比1%減(速報値だがSEMIは7月23日付で2019年第2四半期の出荷額を前四半期比2,2%減、前年同期比3.6%と発表)
- シリコンウェハの2019年1月~5月累計の出荷額実績は前年同期比3%減
- 2019年1月~5月の半導体製造装置の販売高実績(累計)は、前年同期比22%減。国・地域別としては韓国が同55%減、欧州が同45%減、日本が同34%減ながら台湾が同62%増、北米が同44%増と明暗が分かれた
2017年、2018年のメモリバブルの際には、半導体や製造装置における市場予測は、メモリ価格の長期にわたる高騰を読み切れずに上方修正を繰り返してきたが、2019年は一転、長引くメモリ価格の下落に加えて米中貿易摩擦の長期化を読み切れずに下方修正を繰り返している。結果として半導体の市況回復は2020年へと遠のきつつある。
半導体業界には、過剰在庫、需要低迷、米中貿易摩擦、とりわけHuaweiはじめ多数の中国企業への禁輸措置などの懸念事項に加えて、新たに日韓半導体材料輸出規制などの懸念事項が出てきており、見通しはますます不透明になってきており、将来予測を困難にしている。
半導体前工程ファブの設備投資動向
SEMIが調べた半導体前工程ファブの設備投資額の動向(過去の推移と2019年および2020年の予測)を図1に示す。2019年の設備投資について、SEMIは2018年のSEMICON WESTでは前年比プラス成長を予測していたが、その後、徐々に下方修正し、2019年第1四半期時点では同14%減、そして今回は約20%減へと大きく下方修正した。SEMIでは、半導体需要の短期的な弱含みと、サプライチェーン全体にわたる過剰在庫を下方修正の理由に挙げている。しかし、2020年には一転、2桁%の成長を遂げると予測している。このプラス成長についてSEMIでは、メモリ分野における設備投資の再開と中国で計画されている半導体ファブ稼働計画による設備投資開始が寄与するとみている。なお、2019年第1四半期には、2020年の設備投資額を前年比27%増とSEMIは予測していたが、最新の予測では若干の下方修正となっている。
メモリ分野の設備投資
メモリ分野における設備投資額の推移(過去の実績と2019年、2020年の予測)をDRAMとNANDに分けて図2に示す。メモリメーカーはメモリバブルに沸いた2017年および2018年に3D NANDを中心に莫大な投資をした後、メモリバブル崩壊を受けて2019年の投資は2020年へと先送りする形となっており、投資額はDRAM、NANDともに前年度40%以上の減少と大きく落ち込む見込みである。このため、さらなる微細化への移行に影響が出る可能性が高い。2020年には、DRAM、NANDともに、投資額が増加する見込みで、特に先端プロセスDRAM製造にEUVリソグラフィが採用される可能性があり、このため巨額の投資が行われるとSEMIは見ている。
ファウンドリおよびロジック向け設備投資
ファウンドリおよびロジックデバイス向け設備投資の推移(過去の実績と2019年および2020年の予測)を先端デバイスとレガシーデバイスに分けて図3に示す。ここで言うレガシーデバイスとは、2014年~2016年は32nmと、それより古いプロセスを用いて製造されたデバイス、2017年~2020年は22nmと、それより古いプロセスを用いて製造されたデバイスを指す。
先端デバイス向けの2019年の設備投資は、メモリとは対照的に、大きく増加する見込みである。7/10nmプロセスの増産のための投資やEUV採用のための投資が引き続き、先端デバイスへの投資をけん引している。
一方、成熟したプロセス技術への投資は安定している。中国での20nmによる生産や200mmラインへの投資が中心である。仮想通貨のマイニング向けデバイスの回復はまだ見えておらず、その製造向け投資については現時点では読めないとSEMIは述べている。
製品タイプごとの生産能力
2019年の半導体製品タイプごとのファブ生産能力予測を図4左に示す。ファウンドリが32%、メモリが29%、ディスクリートが14%、オプトエレクトロニクスが8%と予測されている。
図4の右は2020年第4四半期の対2018年第4四半期の生産能力増加率(今後2年間に生産能力がどれだけ増加するか?)のランキングで、もっとも増加が見込めるのがNANDで20%増、次がオプト(ロジック/オプト複合デバイス、CMOSイメージセンサ、センサ)で19%増、ディスクリート/パワーデバイスが14%、ファウンドリ11%、MEMS10%と続く見込みである。なお、2019年の世界の半導体生産能力は、月産2300万枚(200mmウェハ換算)とSEMIは予測している。
SEMIによれば、2023年に向けて、300mmファブ数も増えていき、世界中の半導体工場の生産能力も年平均成長率7%で増加していくので、今後も継続的な設備投資を期待できるという。