半導体市場動向調査会社の仏Yole DéveloppementはCMOSイメージセンサ(CIS)市場に関する最新調査結果を発表した。それによると、2018年のCMOSイメージセンサ市場は前年比11.5%増の155億ドルとなり、世界の半導体売上高の3%を超えるまでに成長し、半導体業界の重要な市場セグメントとなってきたという。

また、2019年は同10.1%増の170.5億ドルとなる見込みで、今後の5年間は年平均成長率8%で成長し、2024年には240億ドルに達すると予測している。ちなみに同社では2024年の成長率は同1%と低調になると予測しているが、これについて同社イメージング担当プリンシパルアナリストのPierre Cambou氏は、「2023年にスマートフォン(スマホ)1台当たりのCIS搭載個数の増加が飽和するため」と説明している。

有望な成長分野は車載向け

Yoleに確認したところによると、2018年のCIS市場における用途別シェアは以下のとおり(()内は前年比増減率)。

  • モバイル向け:66.4%(12%)
  • コンピュータ向け:8.2%(-7%)
  • コンシューマ向け:7.8%(3%)
  • セキュリティ向け:6.4%(20%)
  • 車載向け:6.3%(27%)
  • 産業向け:4,4%(17%)
  • 医療向け:0.6%(20%)

最大アプリケーションのモバイル向けだが、その比率は前年比から2ポイント減となっている。その理由についてCambou氏は「車載向けおよびセキュリティ向けの市場規模が、まだ小さいものの、2018年の成長率として高い値を示した結果」と説明している。

とはいえ、これらの高成長分野も市場全体に占める割合はいずれも6%台でモバイル向けの1/10の規模に過ぎない。各社ともポストスマホ時代の成長分野としてこの2分野の将来性に対する期待は大きい。なお、コンピュータ向けはマイナス成長となっているが、これは既存コンピュータ市場の飽和、長期凋落傾向によるものであろう。

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    CIS市場の四半期ごと(左)および年間売上高と企業別内訳 (出所:Yole Développement)

市場シェアはソニーが断トツのトップ

2018年のCIS市場の各企業別シェアは、ソニーが42%(後述するようにモバイル向けに限れば50%)とダントツのトップとなっている。2位はSamsung Electronicsで、ハイエンドスマホ向け高品質CISでソニーに真正面から挑戦しているが、まだシェアはソニーの半分程度にとどまっている。3位はOminiVision Technologies(OVT)、4位にSTMicroelectronics、5位にON Semiconductorと続くがSamsungに大きく離されている。パナソニックやキヤノンもイメージセンサの開発・製造の歴史は長いが市場シェアは1%未満と低い。また、SK Hynicxは非メモリビジネスを推進する韓国政府の方針に沿ってCISに力を入れ始めており、300mmウエハを用いた製造でSamsungを目標にシェア向上を目指している。

ソニーは、裏面照射やウェハスタッキング技術を他社に先駆けて開発しスピーディに商用化を果たすなど、売り上げだけではなく技術力でもトップの座を確保している。そんなソニーのCISの8割がモバイル用で、同社のスマホが世界市場でそれほど存在感を示せていないことを考えると、CISのほとんどは外販であるといえる。逆に、その最大顧客であるAppleのiPhoneが販売不振に陥っており、その影響から、ソニーのCISの売り上げも直近2四半期は連続で下落となっている。

ただし、スマホ1台当たりのCIS搭載数そのものは増加傾向にあることから、スマホ向け中心のビジネスが現状、必ずしもスマホの販売台数減少と連動して悪い方向に向かっているとは言い切れない。

また同社は今後、成長が期待できるセキュリティや車載向けを強化しようとしているが、そのシェアはまだまだ低い状況にあることから、ルネサス エレクトロニクスで車載半導体部門の本部長(執行役員常務)だった大村隆司氏やその部下だった車載向け半導体や車載半導体業界事情に明るいルネサス社員を昨年リクルートしており、今後の車載向けCISビジネスの取り組みが注目されている。

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    ソニーの四半期ごとのCIS売上高および最近の売上高の用途別内訳(Yoleは内訳数値の調査結果を非公開) (出所:Yole Développement)

独自技術で成長狙う2位以下の企業たち

Yoleの調べによると、2018年のモバイル向けCISにおける企業別シェアは以下のとおり。

  • ソニー:50%
  • Samsung:24%
  • OmniVision:14%
  • STMicroelectronics:6%
  • パナソニック:1%
  • そのほか:4%

上位3社(ソニー、Samsung, OmniVision)だけで全体の9割を占めている点が注目されよう。2017年のシェアと比べると、日本勢(ソニーやパナソニック)がシェアをやや落とし、その分Samsung、OminiVision、STMicroelectronicsがシェアを伸ばしている。

スマホ向けCISが、需要減退に伴い、価格競争が激化。今後、中国の新興ベンチャーもローエンドのCISで参入しようとしている市場環境において、Cambou氏によれば「Samsungは、高品質化でソニーに正面から勝負をかけようとしているほか、OminiVisionとSTMicroelectronicsは、3Dセンシングに注力し、グローバルシャッターをHuaweiやAppleに供給して収益を増やしている。ソニーも負けてはおらず、さらに進んだTime-of-FlightセンサをŞamsungやHuawei、LG向けに出荷して対抗している」としており、市場競争の激化が予想されるとする。

なお、ON Semiconductorは、車載向けに注力していることもあり、モバイル向けのシェアはほぼないものの、車載向けとしては断トツのトップシェアであり、当該分野においてはソニーを今のところ寄せ付けていない。

今後、スマホへのCIS搭載はさらに増加

2007年に、AppleからiPhoneが初めて発売され、それ以降、スマホはイメージング市場とそれに対応するテクノロジーに大変革をもたらした。それからわずか5年後、デジタルスチルカメラの生産ピークに達し、それ以降、急速にデジカメ市場は凋落傾向にあるのに対して、スマホを含む携帯電話が消費者のための主要なイメージングデバイスとなっている。

「ソーシャルメディアに関連した新しい用途は、写真撮影のための高品質リアカメラおよび自撮用のフロントカメラの必要性を後押しした」とCambou氏は言う。

2015年~2017年にかけて、背面のズーム機能を拡張するため、または前面の3Dバイオメトリックインタラクションを提供するために、さらにカメラが追加された。Cambou氏は「2019年には、1台のスマホへのCISカメラの搭載個数は平均して1台あたり2.5個となり、CISカメラ市場の成長率も2019年の6.5%増から2021年には同7.8%増に上昇する。スマホへのCIS搭載個数を増加させるのはApple、Huawei、およびSamsungのような主要なスマホOEMにとって重要な戦略となっている。CIS市場の7割を占めるモバイルと並んで、セキュリティと車載が今後も成長を遂げ続ければ、この市場は10億ドル規模に育つことが期待できる」と話している。

監視用、車載用など急成長を遂げている分野でのCISの勝負は、スマホ向けCISで世界をリードしているソニーの本格参戦でこれから始まるところである。Cambou氏も、「スマホへのさらなる各種CISの搭載、大量CIS画像処理へのAI活用、スーパースローモーションに対応するための複数異種チップの積層化、さらに進化した3DセンシングとARアプリへの応用など、2024年に向けてCISはさらに進化をつづけ、市場は拡大していくので、CISの将来は明るい」と今後もCISの市場は成長を続けていくことができると結論付けている。