東京大学生産技術研究所(東大生研)と、東大生研の研究成果を社会実装するために4月1日付けで設立されたベンチャー「IoT-EX」は5月29日、通信プロトコルの異なるさまざまなIoTデバイスの接続を容易に行うことを可能にするIoTクラウド間相互接続サービス「IoT-Exchange」を提供することを発表した。

IoTクラウド間相互接続サービスは、プロトコルフリーを実現することで、各IoT機器の通信プロトコルを意識することなく、相互接続を実現しようというもの。従来は異なるメーカーから提供されている複数のIoT機器を連動させようと思うと、それぞれの通信プロトコルのすり合わせなどを行う必要があり、簡単に実現することはできなかった。

同サービスはプライベートクラウド内の閉じたIoTサービス同士を接続することを目指して2015年に東大生研内に設立された「IoT特別研究会(RC-88)」の研究成果をベースとしたもの。RC-88では、「IoT-HUB」「デバイスドライバ」「R-Edge」と呼ぶ仕組みを考案することで、同サービスの実現にこぎつけた。

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    RC-88における相互接続を目指したテストベッドの考え方。S界面ですべてを賄うのではなく、その前段階のR界面とWeb APIを接続し、S界面とはそれぞれの機器のためのドライバを用意してやることで、プロトコルを意識することなく、相互接続が可能になることを確認できたという (提供:東大)

考え方だが、IoT-HUBが相互接続のためのプロトコルフリーを実現するレイヤという扱いで、同レイヤ上で各IoTアプリとの接続は各社から提供されるWeb APIを用いて、R-Edgeと呼ぶデバイスインタフェース部と接続。一方のエッジ側の機器とは同レイヤ上で規定された形で記述されたドライバを用いてR-Edgeと各機器の間を介してデータやコマンドのやり取りを行うことで、プロトコルを意識せずに、さまざまな機器の接続を実現しようというものとなっている。

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  • IoT-Exchangeの概要。中心となるIoT-HUBはクラウド上にあり、そこにIoTアプリ、機器ともにつながることで、プロトコルフリーであらゆるサービスと機器がつながることができるようになる (提供:東大)

IoT-EXは電気通信事業者として、電気通信事業法に基づきユーザーが行っている通信内容の秘匿を担保しつつ、IoT-HUBを中心とした仕組みをアプリベンダや機器ベンダなどにIoT-Exchangeとして提供することで、そのインフラの維持・発展を担う役目を果たしていくこととなる。当面はBizMobileの100%子会社という扱いだが、インフラの維持・発展のためには1社からの出資ではなく、インフラを利用するユーザー企業からの出資を募り、インフラとしての健全性の担保も図っていくという。

  • IoT-EX

    IoT-EXという会社形態で事業を開始したのは、電気通信事業者として通信の秘密を担保することを示すためとのこと。そのため、その形態そのものに確固たる意味はなく、広く出資を募る、という姿勢も、IoT-Exchangeを独占するのではなく、インフラとして社会的な共有資産にしたいという思いからだという (提供:東大)

オープンプラットフォームとしてIoT-Excangeの利用数が増加すると、相互接続性そのものへの担保が必要となる。そうした時に、エンドユーザーに分かりやすく説明するには、接続を担保する認証を受けているといったことを示すことが有効となるわけだが(例:USB)、RC-88の代表幹事を務める東大生研の野城智也 教授に聞いたところ、IoT-EXへの複数社による出資の先の未来には、そうした枠組みへの発展も十分にありうる、という回答をいただいており、「IoTにおける道路のようなインフラに育てていきたい。道がなければつながらないし、道だけあっても、ガードレールや信号機、はたまたカーナビのようなものも求められることとなる。そうしたIoTを活用するための社会インフラとして育てていければ」、と今後に向けての抱負を語ってくれた。

では、具体的にこのIoT-Exchangeを利用して、どのようなことができるようになるのか。東大生研でも実証研究が行われているが、例えば緊急地震速報とガスコンロを連動させて、緊急地震速報が発報された際に、瞬時にガスコンロの火を止めたり、人感センサとガスコンロや窓、照明を連携させて、家屋内に誰もいない状態になった際に、自動的に消し忘れたガスの火を止めたり、窓を閉じて施錠したり、玄関のドアを施錠したり、といったことができるようになるという。

なお、仕組みとしては家庭内だけでなく、工場内などでも利用は可能。また、実証研究用に試作されたドライバも複数用意されており、興味を持った企業などがサービスを開発するためにそれを活用したりといったことも可能だという。

将来的にはIoT-EX側でもビジネスマッチングやコンサルティング、開発支援といったビジネスを展開していきたいとしており、そうした取り組みを通じ、IoTインフラとしての存在感を高めていければとしている。