ECビジネスのなかで大きな存在感を示すファッション通販。楽天市場やYahoo!ショッピングといったショッピングモール型サイトからZOZO TOWNに代表されるファッションに特化した通販モールまで、多数のプレイヤーが厳しい競争を繰り広げている。しかし、そのような競争をよそに自社サイトを中心にビジネスを拡大し、しかもアパレルビジネスの主力であるレディースファッションではなく、メンズファッションの通販で年商10億円にまで成長した企業がある。福井県あわら市に本拠を置く2009年創業のベンチャー企業ドラフトが運営するECサイト「Dcollection」だ。同社はなぜ、メンズファッションのビジネスでここまで成功できたのか。代表取締役CEOの伊藤佑樹氏に話を伺った。

  • ドラフト代表取締役CEOの伊藤佑樹氏

ファッション通販ビジネスを立ち上げたら、集客力の高いモール型ECサイトに出店するのが定石だ。ドラフトでも、メンズファッション通販のビジネス開始当初は楽天市場に出店し、楽天経由での売上が最も多かったのだという。

しかし、多くのショップが同じカテゴリーに膨大な数の商品を出品して競争するモール型ECサイトの場合、人気商品ランキングや価格の安さランキングで上位に入らなければ商品がユーザーの目に触れることは非常に少なくなる。必然的に、陳列する商品のバリエーションと価格で他のショップと競い合うことになったという。

「当時はランキングで1位に入ることだけを目指していた。結果的に、購入したお客様から“ありがとう”と言われることはなかった」と伊藤氏は当時を振り返る。商品や価格のランキングを見ているユーザーにとって、“どこが売るか”は大きな関心ではなく、ショップは商品を購入する手段でしかない。モールへの出店では、ある程度の売上が見込めた反面、ショップとユーザーのエンゲージメントを築くことができなかったのだ。

どうすれば、ユーザーに喜ばれるショップにできるのか。その答えを探すため、同社では自社サイトを利用するユーザーにアンケートを取ったのだという。その結果、男性ユーザーからは「どんな服を買ったらいいのか、わからない」という意見が最も多かったのだという。この意見に、伊藤氏はブルーオーシャンを発見したのだ。

ファッションに敏感な女性の場合、日ごろからファッション誌などでブランドの情報やファッションのトレンドを吸収し、ECサイトで欲しい商品を探す際には“何が欲しいか”というイメージがある程度完成している。ファッション通販で日常的に商品を購入する男性も、ファッションに関する情報感度は高いほうだと言えるだろう。しかし、男性の大部分は“オシャレをしてみたい”という欲求は抱きつつ、一方でファッションに疎く知識や経験がない。オシャレをしたくても何をすればいいのかわからないのだ。

そこで、同社ではオシャレ初心者が日常生活で活かせるファッションのノウハウをまとめた「オシャレの教科書」というコンテンツをビジネスの中心に据えた。商品を売る前に、まずは「何をすればいいのか」という若い男性ユーザーの悩みに応えることを考えたのだ。そして、モール型のECサイトでは様々な制約でこのようなコンテンツ展開がしにくいため、モールに頼らず自社サイトで運営しようと考えた。

「ビジネスのターゲットを、“おしゃれが苦手な男性”に絞った。特に若者は洋服選びに困る。学校に着ていく服に困る。そうした悩みに応えるコンテンツを展開することを第一に考えた」(伊藤氏)

  • 「Dcollection」のサイトに公開されている「オシャレの教科書」

2014年からコンテンツ拡充を進め、現在では会員数は約17万人で月間UUは250万人。利用者のうち20代から30代の男性がほとんどを占めているという。ビジネス全体の中で自社サイト経由の売上は90%を超え、「オシャレの教科書」で紹介された全身コーディネートを購入するユーザーが多いため、顧客の購入単価は9000円と大手ファッション通販サイトの3倍近くになっているという。2019年2月には、年商10億円も達成した。顧客満足度も非常に高く、楽天に出店していたときと違い購入した人からの喜びの声も多く寄せられているのだそうだ。

伊藤氏は「男性向けアパレル市場は女性向けよりも圧倒的に小さいが、“おしゃれしたいけれど、どうすればいいのか”と悩みを抱える人の潜在市場規模は大きいのではないか。男性生活者の潜在ニーズをどれだけ掘り起こせるかが、これからのチャレンジになる」と語る。ファッションECビジネスの定石に囚われず、生活者の生の声に寄り添った結果、同社はブルーオーシャンにたどり着き大きな成功を生み出したのだ。