富士通のコミュニケーションロボット「ロボピン」のマーケティング領域での活用が広がっている。
広島銀行は2017年12月、「次世代を見据えた店舗改革の先駆けとなる革新的な店舗」をコンセプトとしてオープンした八丁堀支店の新店舗において、行員に代わってロボットが店内の施設案内や周辺観光地案内など来店客とのコミュニケーションを行う実証実験を行った 。これは、ロボピンが来店客の接近を認識し、店内に設置しているタブレットを連携させ、来店客がタブレット上で選択した店内や八丁堀支店周辺の案内などの用件に合わせて応答するというものだ。
同じく2017年には、都庁において、来庁者に対して都庁舎の案内や東京の観光案内などを行った。「ロボピン」が来庁者から話しかけられた言葉をコミュニケーションツール「FUJITSU Software LiveTalk(ライブトーク)」を活用してリアルタイムに多言語音声認識し、応答。来庁者の質問に対して、プロジェクタやタブレット端末などと連携し、庁舎内や観光地の地図などを表示させた。
今年の2月には、「のもの グランスタ丸の内店(JR東京駅構内)」において、2体のロボピンが掛け合いや店頭の販売商品に関するクイズを通じて、おすすめの商品を紹介し、ロボピンの動きにあわせて、デジタルサイネージに商品や産地の映像を流し、視覚的に商品の魅力を伝えたほか、デジタルサイネージの上部に取り付けられたカメラで収集される時系列ごとの集客数と、該当商品の販売数や売上との相関関係を分析した。
そして、今年の2月のには、伊勢丹新宿本店において、デザインを変更した伊勢丹の包装紙「radiance(ラディアンス)」のデザインコンセプトを「ロボピン」がデジタルサイネージの映像と連動しながら紹介した。。この取り組みでは、三越伊勢丹で店員の接遇指導を行うインストラクターから、お辞儀や案内の所作などの動作データを収集して、「ロボピン」の動作を設定し、新たな顧客体験を提供した。
「ロボピン」とは
ロボピンは、高さ300mm(別に台座が114mm)、幅および奥行き276mmという割と小さなロボットだ。ソフトバンクのpepperが高さ1210mmであることを考えると1/4のサイズで、テーブルにも載せられる。重量は3.5kgで、頭部に30万画素のカメラと感情表現をするLED、タッチセンサー、背中にもタッチセンサー、手に方向指示用LED、台座にスピーカーやUSBを備える。体の部分を動かすモーターは、左右の腕、胴体(前後、左右ひねり)、頭(前後、首振り)にあり、6ポイントで動作が可能だ。
ロボピンは、富士通研究所が開発し、2016年の同社のプライベートイベント「富士通フォーラム」で初めて披露された。生産は島根富士通で行われているが、一般販売はなく、企業向けサービスとして個別に提供されている。現在は、実証実験として導入されるケースが多い。
ロボピンは複数台を連携して動作させることができるのが特徴で、昨年の富士通フォーラム2018では、プロ振付師集団HIDALIが振り付けを行い、9台のロボピンが連動しながらダンスを行う様子が披露された。
動作については、当初はプログラムを書いて制御していたが、最近ではVRツールでのモーションキャプチャーを利用し、人間の動作をロボピンに再現させることで、複雑な動作が可能になったという。伊勢丹の事例は、商用として実用化された初めてのケースだ。
富士通 マーケティング戦略本部 新技術事業化戦略統括部 新技術事業化推進部 マネージャーの中島哲氏は、「設定が楽になっただけでなく、滑らかな動きも可能になりました。われわれが行うお辞儀と、伊勢丹さんのプロの方が行うお辞儀は違います」と説明する。
富士通 マーケティング戦略本部 ビジネス開発部 シニアマネージャー 佐藤裕之氏は、「今後はいろいろな方に振り付けをしてもらい、そのバリエーションを増やして、クラウドで提供していこうと思います」と語る。
踊る姿を見ると非常に高機能であるように見えるロボピンだが、プログラムを組み込んで動作させるような機能はもっていない。制御プログラムはすべてPC側で行っており、PCなどと接続させて動作させるのが基本だ。つまり、PCの周辺機器と同じような位置づけだ。
「ロボピンはUSBで接続しているマウスと同じで、駆動させるためのしくみしか入っていません。Google、Amazonのほか、富士通のAIであるZinraiといったクラウドサービスとつないで制御でき、多言語対応もGoogleを利用しています。そのため、世の中が進歩すれば、すぐに取り組むことができます。PCのソフトを変えれば、いろいろなものに対応でき、企業内で使われている業務ソフトと連携しやすいというメリットがあります」(中島氏)
用途としては、訪問者への声掛け、名刺や来訪者カードの読み込み(OCR)、担当者の呼び出し、情報提供、移動の案内などが想定されているが、一番注目しているのは、ビデオ映像との連動による販促だという。
「伊勢丹さんのケースもそうですが、映像と連動させるケースが多く、グランスタ丸の内店(JR東京駅構内)の場合は、実演販売の方のビデオと連動する形で商品を紹介しています。ビデオだけだと立ち止まってもらえませんが、ロボットがコラボしていると、立ち止まってもらえます。実演販売とのコラボは、われわれが今、一番注目している領域です。伊勢丹さんのケースだと、ショーウィンドーで立ち止まる人の割合は、通常は0.1%くらいですが、ロボピンを利用したケースだ、2~4%で、平均2.4%と20倍くらいの差があります。さらに、目線を獲得した割合は11%になります」(佐藤氏)
佐藤氏によれば、サービス価格のコンセプトは、時給計算だという。
「受付の人の代わりに置くとすれば、いくらというような考え方をしています。受付だとアプリケーションを含めて、人材派遣の半分程度の月額198,000円くらいです。この値段で、2000円の本の販促を行うとすれば、1日12冊、1時間に一冊のペースで販売できる状況を作りだせるかどうかがポイントになります。時給でいえば、せいぜい1000円くらいでしょう」(佐藤氏)
いまのところ、一般のコンシューマ向け販売は想定していない
「われわれの販路を考えると、コンシューマは行く市場ではないと思っています。現在は実証実験が多いですが、サービスとしてお金をいただいており、売り切りモデルがないというだけで、正式サービスと変わらないと思っています。ただ、用途がはっきりわかっていない面もあり、市場的には黎明期だと思っています」と語るように本格的な市場開拓はこれからだ。今後、どのような新たな使い方が登場してくるか楽しみだ。