Samsung Electronicsは、自社のファウンドリサービス部門であるSamsung Foundryにおいて、28nm FD-SOI(28FDS)プロセスを採用した組み込みMRAM(eMRAM)の量産を開始したと発表した。

eMRAMはすでにTSMC、Globalfoundries(GF)、Intelなどから発表されているが、Samsungにとっては、初めてのMRAM商用化ということになる。

組み込みメモリとして主に普及しているのはeFlashだが、28nmプロセスで微細化の限界に達したといわれている。そのため、各社は新たな組み込みメモリの探索を進めており、Samsungでは、今後も引き続き微細化が可能で、かつ不揮発性ながらランダムアクセスが可能で、長寿命なeMRAMがもっとも有力な候補として開発を進めてきたとする。同社のeMRAMは、従来のeFlash比で書き込み速度を1000倍高速化できたという。

また同社は基板バイアス制御によってリーク電流を最小化できる28nm FD-SOIとeMRAMを組み合わせることで、マイコンをはじめとするIoT、人工知能(AI)を含むさまざまなアプリケーションを差異化するデバイスの開発が可能になると宣伝している。同社によると、eMRAMの最初の製品は、Samsung Foundryの本拠地である韓国器興(キフン)工場より3月6日に出荷されたとするほか、今年中に1GビットのeMRAMテストチップをテープアウトする計画で、開発に取り組んでいるとしている。

Samsung FoundryによるeMRAMの説明ン

eMRAMで存在感が希薄なファウンドリビジネスをてこ入れ

Samsungの半導体部門の売り上げの83%(2018年)はメモリ事業によるもので、受託生産のファウンドリ事業とイメージセンサやシステムLSIなどのシステムLSI事業のいわゆる非メモリ事業の売上はわずか17%を占めるにすぎない。

ファウンドリ業界の勢力図は、トップのTSMCがシェアの半数を占める中、プロセスの微細化でも最先端を走り、最先端の顧客を囲い込むことで、ライバルを寄せつけない状況にある。Samsung FoundryはGF、UMCに続く世界4位の事業規模に甘んじており、そのシェアも数%と業界での存在感は薄い

今回、eMRAMを商用化したのは、世界最強のメモリ事業部ではなく、マイナーなファウンドリ事業部であるわけだが、その背景には、韓国政府が国内半導体メーカーの非メモリ事業強化を推進しているという関係も見える。2019年は、SamsungだけではなくSK Hynixもメモリバブル崩壊でメモリ事業の売り上げが前年比で2割以上落ちこむ見込みなので、ファウンドリビジネスを含む非メモリビジネスに注力せざるを得ないという事情もあり、今回のようなeMRAMをラインアップに追加するなどの顧客サービスの拡充を強化する必要性が生じているといえる。

ちなみにSamsungは、韓国華城(ファソン)工場内に60億ドルを投じてEUVリソグラフィ採用のファウンドリ専用ライン(EUVライン)を建設中で、来年にも稼働させる計画である(図1)。

  • Samsung Foundry新棟

    Samsung Electronics華城工場内のSamsung Foundry新棟 (出所:Samsung Newsroom)

MRAMによる既存メモリの全面的置き換えは現状では無理

読み書き速度は速いが不揮発性ではないDRAMや不揮発性だが読み書き速度が遅く寿命の短いNANDを代替したり、これらの中間に位置するストレージクラスメモリ(SCM)を開発するために、半導体メモリ各社は「次世代メモリ」開発に莫大なリソースを投入している。

MRAMだけではなく、PRAM(相転移メモリ)、RRAM(抵抗変化メモリ、FeRAM(強誘電体メモリ)などいろいろなタイプが候補として挙がっている。Intel/Micronが開発した3D XpointメモリはPRAMの一種と言われている。これらはすべて、従来のDRAMやNANDに比べてビット当たりの製造コストが高いうえに、超高集積化のめどが立っておらず、従来のメモリを全面的に置き換えるのは、破壊的ブレークスルーでもない限り当分は難しい。そこで、各社は、当面何とかニッチな用途で実用化を図ろうとしている。

MRAMの場合は、一部で小記憶容量の組み込みメモリとして使ったり、SRAMに替わるラストキャッシュメモリとして使う検討が行われている。一部では「SamsungがMRAMを量産」などと報じられているが、決してDRAMやNANDを本格的に置き換えるようになったわけではない。

なお、SamsungのライバルであるSK Hynixは、2011年以降、東芝と共同で韓国利川(イチョン)のSK Hynix本社研究センターでMRAM開発に取り組んでいるが、商品化には至っていない。両社はすでに、高集積な4GビットMRAMを学会発表しているが、おそらく将来のポストNAND時代の到来に備えて、長期にわたり既存メモリ並みの大容量メモリの開発を継続しているものと思われる。SK Hynixは東芝メモリの隠れた大株主であり、ナノインプリント・リソグラフィ分野でも情報共有を進めており、今後の両社の共同開発の成り行きが注目される。