日本テレワーク協会が実施している「第19回テレワーク推進賞」において、愛媛県西条市が会長賞を受賞。このほど、都内で表彰式が行われた。教育クラウドによるテレワークで会長賞を受賞するのは初めてとなる。

  • テレワーク推進賞の表彰式の様子

西条市では、ICTを活用した快適な生活を送ることができるまちづくりを目指し、地域の情報化を促進する「スマートシティ西条」の実現に取り組んでいる。教育分野でのICTの積極的な活用も、その一環であり、Microsoft Azureを活用して、教育クラウドによる教育と校務の情報化を推進。「子どもたちの学びの充実」と「教員の働き方改革」に取り組んでいる。

西条市の出口岳人副市長

西条市の出口岳人副市長は、「人口11万人の西条市は、人口が減少する傾向にあるが、小学校は閉校しないという方針を持っており、それを維持する手段のひとつとしてICTを活用している。閉校しないことが地域の活性化につながると判断し、地方においても、質の高い教育を実現できることを実証してきた。学び方改革や教職員の働き方改革は、全国的な課題であり、今回の会長賞受賞は、それに挑んできたことが評価されたと判断している」とした。

西条市は、2004年に、旧西条市、東予市、丹原町、小松町が合併。これにあわせて、教育文化の統一化に向けた取り組みを開始。統合型校務支援システムを導入し、教職員が、子供や自分自身と向き合う時間の創出に取り組んできた経緯がある。

2009年度以降、市内の35校の全小中学校を対象に、職員室の校務を電子化に着手。児童および生徒の名簿管理や成績処理、通知表、保健管理、指導要録、教材作成などに活用してきた。

  • テレワーク導入の背景

だが、PCを利用する場所や利用時間に制約があり、利便性が大きく低下。「結果として、教員を職員室に縛ることになってしまい、むしろ、教育の満足度が低下することになった。また、校長の許可を得なくては、USBメモリを自宅に持ち帰れなかったり、場合によっては、持ち帰ったものの、USBメモリを紛失してしまうということもあった。こうしたICTの活用に伴い発生した利便性の課題や、ワークライフバランスの確立といった課題の解決に、テレワークの検討を開始した」という。

テレワークについては、2015年11月からトライアルを実施し、2016年4月から本格的な利用を開始。教育委員会の職員を含む、小中学校の教員ら、504人が利用。利用率は全体の59.2%に達している。

  • テレワークによる「ワークライフバランス」の実現

西条市教育委員会 学校教育課 副課長兼スマートスクール推進係長の渡部誉氏

「個人が所有するPCによって、自宅や出張先でも校務ができるようにし、時間や場所を選ばない、安全な『持ち帰り校務』を実現している」(西条市教育委員会 学校教育課 副課長兼スマートスクール推進係長の渡部誉氏)という。

 Microsoft Azureを活用し、Express Routeによる閉域網接続を行い、セキュリティや堅牢性、信頼性を確保。仮想デスクトップ環境で利用することで、画像情報のみを転送。ワンタイムパスワードによる二要素認証を採用して、セキュリティ性を高めている。

  • 仮想デスクトップや二要素認証でセキュリティを強化

「センターサーバー方式で構築をしていたら、ここまでの活用の広がりと安定性はなかった。Azureを選択した理由は安全性と信頼性があるという点。国内のクラウド環境では唯一といえるほどの安心感がある」と評価した。

  • 実行環境

同市の調査では、午後9時~午後10時の利用が最も多く、次いで午前6時~7時が多いという。

「毎日利用している教員がいる一方で、学期末や週末だけ利用している教員もいる。また、教員によっては、職員室で作業をすることにこだわっているケースもある。それぞれの教員が、自らの校務のやり方に最適な形でテレワークを利用しており、持ち帰り仕事を推進するものではない」としている。

親の介護をしたり、子供を育てている教員の場合には、一度家に帰り、午後8時過ぎに、再び職員室に戻るという場合も決して少なくなかったという。

「親の介護をしていた教員からは、テレワーク支援システムがなかったら、休職していたという声もあがっていた」という。

2016年度には、ICTを活用によって、校務にかかる時間は、ICTが導入される前の2009年度と比較して、年間で114.2時間も短縮。また、全国学力・学習調査では、11.0%向上したという。

「2018年度には、校務に関わる時間は、速報値で年間162.2時間短縮している。これまでにテレワークを導入して、運用におけるトラブルや事故は起こっていない」という。

  • これまでの成果

西条市では、将来的には80%の教員での利用を目指しているほか、今後は、テレビ会議システムを活用して職員会議などでの利用も想定。

「すべての教員が利用することは想定していない。また、すでに教頭会議の一部でテレビ会議の仕組みを利用しており、今後は、インフルエンザなどで学校に来ることができない教員が、テレビ会議を通じて、職員会議に出席するといったことも含めて、テレワークの利用を促進したい」などとした。

日本マイクロソフト 執行役員常務 クラウド&ソリューション事業本部長の手島主税

日本マイクロソフト 執行役員常務 クラウド&ソリューション事業本部長の手島主税氏は、「将来の日本を支える子供たちの創造性を高めるためにも、先生の働き方改革を通じて、児童および生徒と過ごす時間を増やしたり、先生の創造性を高めて、いままでできなかったことができる時間を作ったりといったことに、ICTを活用してもらいたい。働いている人が働き方をチョイスできる環境を作らなくてはならない。それは教員も同じであり、その手段のひとつとして、テレワークがある。西条市の取り組みを、全国の小中学校に対して、先進的な事例として紹介していきたい」と述べた。