2018年12月より、BS・110度CSで「新4K8K衛星放送」が開始されるが、そうした従来以上の高品質映像の制作現場などで活用される業務用AV/ブロードキャスト分野でのFPGAの存在感が増している。

テレビのデジタル化や、インターネット上での4K動画配信などの裏には、放送機材などのデジタル化も存在している。こうした業務用AV市場やブロードキャスト市場と呼ばれる業界は、世界的なデジタル化の進展に伴い、年々成長が続いており、業務用AV市場における半導体セグメントの市場規模(SAM:Serviceable Available Market)は、2020年で8億800万ドル、CAGR(年平均成長率)も12~14%と予測されているほか、ブロードキャスト市場の半導体セグメントも2020年で4億8000万ドル、CAGR2~3%と期待の市場の1つとなっている。

  • 業務用AVおよびブロードキャスト市場の機器と市場成長要因

    業務用AVおよびブロードキャスト市場の機器と市場成長要因 (資料提供:Xilinx)

その成長を後押ししているのが、撮影に用いられるイメージセンサや、撮影した映像を表示するディスプレイ技術の進化。解像度がフルHD(2K)から4K、そして8Kへと拡大していくことはもちろん、HDRへの対応によるフレームレートの向上、色空間の拡大といったことが可能な半導体が求められることとなる。

また、解像度などの向上により、1フレーム当たりの比圧縮データは増大をしていくことになるため、それを圧縮して送信するエンコード/デコード技術や、編集の容易化に向けたAIの活用など、半導体の適用範囲が拡大しつつあるという。

  • 業務用AVおよびブロードキャスト市場の技術トレンド

    業務用AVおよびブロードキャスト市場の技術トレンド (資料提供:Xilinx)

さらに後押しとなるのが5Gの存在だという。Xilinxで業務用AVおよびブロードキャストビジネスセグメント ディレクターを務めるラメシュ アイヤー氏は、「日本市場は、テレビやカメラで求められる技術を解決していく上で最先端を走っているといえる。また、2020年の東京五輪に向けたニーズも拡大している」とのことで、そうした環境の中において、Xilinx(と同社の日本法人であるザイリンクス)が、どのような対応ソリューションを提供していくかが、この市場の成長の鍵の1つとなるとする。

  • ラメシュ アイヤー氏

    Xilinxで業務用AVおよびブロードキャストビジネスセグメント ディレクターを務めるラメシュ アイヤー氏

「8Kに対応するためには帯域を広く取らないといけない。そのためにはHDMI 2.1に対応する必要がある。また、放送網もEthernetの活用が進みつつあるが、4Kを非圧縮で送ろうとすれば25Gbps、8K非圧縮になれば100Gbpsの伝送速度が必要となり、そうした技術的ニーズに柔軟に対応できるのは現状、FPGAだけだと思っている」(同)と、同社のFPGAが業界の中でも有利なポジションに位置していることを強調する。

実際、さまざまな放送ソリューションのほとんどのプロセスで同社のFPGAもしくは新カテゴリ「ACAP」の製品が活用可能だという。すでに映画のVFX処理などでも活用されており、レンダリング時間の大幅削減や、数百個必要としていたオーディオDSPを1個のFPGAに置き換えることに成功するといった事例も出てきているという。

  • ライブTVにおける放送フロー
  • ライブTVにおける放送フロー
  • ライブTV、いわゆる生放送の現場から家庭までの映像伝達フローと、各プロセスごとに用いられる機材。この多くにFPGAが搭載されている (資料提供:Xilinx)

  • デジタルシネマの作業フロー
  • デジタルシネマの作業フロー
  • デジタルシネマの撮影から映像配信までの作業フローと、各プロセスにおいて適用されるXilinxのソリューションイメージ (資料提供:Xilinx)

  • 新カテゴリとなる「ACAP」

    新カテゴリとなる「ACAP」の第一弾は「Versal」という名称で2019年に登場する予定 (資料提供:Xilinx)

また、日本の放送機材やAV機器メーカーの多くもFPGAを搭載したソリューションを展開しているという。例えば、ソニーは業務用カメラ/カムコーダーに、NECはデジタルシネマプロジェクターに、パナソニックはメモリレコーダー、ヤマハはオーディオミキサー、日立製作所はDTVトランスミッターといった具合である。

「新たに登場したPCI ExpressカードであるAlveoを活用していくことで、編集などの高速化はもとより、視聴データの分析や、視聴者に送信する際のトランスコード/エンコードといった部分でも高い性能で実行ができるようになる」(同)とのことで、新たなソリューションにより、より対応できる範囲が拡大していくともする。

  • Alveoの概要

    Alveoの概要 (資料提供:Xilinx)

  • 放送分野でもAIニーズが拡大

    放送分野でも機械学習や人工知能の活用ニーズが拡大しており、Alveoの活用が期待されるという (資料提供:Xilinx)

さらに、「我々は4K/8Kに対応するさまざまなIPも用意しているほか、パートナーもコーデックなどのソリューションを提供しているため、カスタマはそれらを用途に応じて活用することで、これからの放送に求められるソリューションを比較的容易に構築することができるようになる」ともしており、2019年に登場する予定のACAP製品の第一弾「Versal」以降も順次、切れ目のないソリューション提供を進めていくことで、市場の活性化を支援していきたいとしていた。

  • 4K/8Kに対応する各種IP

    Xilinxから4K/8Kに対応する各種IPが提供されるほか、同社のパートナー各社からもIPが提供される (資料提供:Xilinx)